最近では使われる機会もないため、「たらい回し」という言葉は知っていても「たらい」そのものを知らない人も多い。洗面器を大きくした木製の丸い容器で、昔は洗濯用などに使われていた。そのたらいが本来の用途ではない使われ方で、人の命を救ったという物語が大垣に伝わっている。

 「おあむ物語」といい、関ケ原合戦で西軍の本拠地となっていた大垣城の落城の様子を、石田三成の家臣山田去暦の娘・おあむが後年語り継いだもの。東軍に攻め込まれ、篭城戦となっていた大垣城で、当時17歳だったおあむは、弟を鉄砲で殺され、母が妊娠していたこともあって、一家で脱出を決行。松の木から縄を垂らして石垣を下り、命からがら落ちのびた。そのとき、舟代わりに堀を渡ったのが「たらい」だった。

 今月上旬、このストーリーを基にした市民創作劇が、大垣市民会館で上演された。一般から出演を募った7歳から70代までの市民ら45人が、歌を交えながら、悲惨な篭城戦の様子や戦国における女の生きざまなどを生々しく演じ、好評を博した。

 恒例となっている水門川での「たらい舟川下り」は今年も3月24日から30日まで開催される。ぜひ、この機会におあんたちの時代に思いをはせながら、たらい舟を体験してみるのもいい。

 たらい舟の下船場近くには、芭蕉をテーマにした「奥の細道むすびの地記念館」が今春オープン予定で、観光拠点としての期待も高まっている。JR大垣駅北口広場の整備も進められ、ぎふ清流国体に合わせて、東海環状自動車道大垣西インターチェンジも開通する予定だ。

 全国からの観光客を迎える準備も整い、今年は大垣市にとって、“観光元年”となる予感。あとは、市民のおもてなしの心が加われば申し分ない。

(西濃支社長 中山敦)