写真:長良川河口堰論争再び過熱

運用開始から16年がたった長良川河口堰。愛知県の有識者会議を発端として、開門をめぐる論争は再び火のつく様相をみせている=三重県桑名市

 運用開始から16年が経過した長良川河口堰(ぜき)=三重県桑名市=の開門調査の是非を審議する愛知県の有識者会議が今秋中にも、長期の調査実施を大村秀章愛知県知事に提言する見通しが強まった。開門を求め続ける環境団体や漁業者に対し、国や事業者の水資源機構は塩害への懸念を理由に常時の開門を拒み、岐阜県など関係自治体もこれに追従してきた。大村知事の委嘱を受けた有識者会議の提言は平行線の河口堰論争に一石を投じる。長良川全長の約9割が流れる岐阜県にとって人ごとではなく、実現への期待と塩害発生を不安視する声が交錯している。

「清流」の未来へ熟議不可欠

 「長良川に明かりが見えてきた」。60年にわたり、長良川で川漁を営む羽島市の大橋亮一さんは感慨深げ。6月には有識者会議に招かれ、窮状を訴えた。「おぜえ(悪い)川になった。河口堰ができて流速がなくなり、洪水の時だけ一気に流れるから、川底は砂ばっか。鮎の食うあか(藻)もないし、卵を産む場所もない」と。今回、積年の思いが初めて、行政側に正面から受け止められた気がしている。「河口堰を開ければ、川は戻る力を持っている。ダムのない川はそう多くない。日本の宝として長良川を助けてやってほしい」と切に願う。

 河口堰反対の立場をとる岐阜大学地域科学部の富樫幸一教授は有識者会議設置そのものを「画期的」と評価する。「これまで河口堰について、国と関係者が対等な立場でディスカッションする場がなかった。結論にはさらに議論が必要だが、傍聴者や市民も意見を出す機会が設けられ、オープンに議論できるようになったことは大きい」と話す。

 一方で、塩害が死活問題となる農業者は強く反発する。堰のすぐ上流の海津市にある福江営農の後藤昌宏社長は「河口堰があるから安心して農業ができる。開門によって塩害が起きたり、農業に必要な水が制限されないか心配。塩害が起きた場合、誰が補償してくれるのか」と憤る。報告書案では開門時の塩水遡上(そじょう)の程度は「分からないのが実情」とする。河口堰建設以前、塩水のせき止めに効果があったとされるマウンド(土の堆積部)が近年再び形成され、遡上の可能性は低いとの見方もあるが、専門委員を務める岐阜大学の藤田裕一郎流域圏科学研究センター長は「河道は堰建設前よりかなり切り下げられており、塩水がマウンドで止まるとは言い切れない」と警鐘を鳴らす。

 ただ、有識者会議が開門調査を提言しても、実現へのハードルは高い。報告書案では関係者による協議機関の設置を提案するが、調査実施を前提に置いたともとれる議論の進め方に、岐阜、三重県の反応は冷ややか。海津市の松永清彦市長は「一つの市や県が突出して進めるべき話ではない。関係者に対する説明をしっかりしてもらいたい」と批判。岐阜県議会は河口堰の「潮止め堰」としての役割を重視し、適切な運用を求める決議を採択した。

 古田肇知事は「他県の報告書案についてコメントは差し控えたい」と静観の構えをみせる。しかし、岐阜県では昨年、長良川を舞台に全国豊かな海づくり大会が開かれ、来年は「清流」国体も実施される。「清流の国づくり」は古田県政のスローガンの一つ。そのシンボルでもある長良川の行く末を握る河口堰問題が再燃しつつある今、県には当事者意識を持ち、積極的に議論の場を創出する姿勢が求められる。

(西山歩)

【開門調査に関する愛知県の有識者会議】

 大村秀章愛知県知事、河村たかし名古屋市長が2月の選挙で長良川河口堰の開門調査を共同マニフェストに掲げた。有識者会議は6月発足。下部組織の専門委員会で利水、塩害、環境などの分野ごとに河口堰の効果と影響、開門で予想される変化を検証してきた。9月、専門委がまとめた報告書案では「開門調査が『環境復元』になる可能性が極めて高い」として、「5年以上」の実施を提案。塩分の混入が想定される利水分は、既存の水源でほぼ代替可能とする。現在、パブリックコメントを実施している。