写真:放獣クマ対応“迷い道”

クマへの注意を呼び掛ける看板=海津市南濃町志津

捕殺か否か、揺らぐ三重県に困惑

 三重県が捕獲後に放したツキノワグマが先月末から養老山地に出没している問題が、新たな局面を迎えている。三重県が捕殺を前提に進めてきた対応をここに来て見直そうとしているためだ。1カ月余にわたり対応に追われてきた岐阜県や周辺自治体からは、発信器をクマに取り付けた三重県に対して主体的な対応を求める意見が上がる。一方、住民は事態を冷静に受け止め、身を守る取り組みが広がっている。

不安の除去を

 「養老山地にクマはいない」と地元ではかねてから認識されてきた。そんな地域に突如、クマの存在が明らかになったのは先月28日。クマの発信器の電波を海津市内の山中で受信した。前日の27日には滋賀県内でクマに人が襲われており、不安が広がった。

 その後、電波をたどると、クマはこの間、岐阜、三重、滋賀の県境付近をうろうろするように移動し、養老山地を時計回りにほぼ2周した。多い日には約10キロ移動。大垣市上石津町がある養老山地の西側は傾斜が緩く、最長で4日間もほぼ同じ地点に居着いていることも分かった。

 捕獲活動は難航した。海津市猟友会の竹中孝道会長(71)は「今の時期は茂みが多いため、視界も限られている上、人けを感じ取ると、猛スピードで逃げていく」と難しさを口にする。

 クマが近付くと、養老公園(養老郡養老町)は一時、臨時閉園。海津市の県さぼう遊学館で予定されていたイベントも中止に追い込まれた。

 そんな中、今月23日、発信器を付けたクマは滋賀県で女性を襲ったクマとは別であることがDNA鑑定で新たに判明。関係自治体が今後の対応策を話し合ったが、発信器のクマが“シロ”と分かったこともあり、捕獲するのかどうか、位置観測を続けるのかどうか方針は定まらなかった。

 岐阜県の自治体は三重県に対し「より主体的に住民の不安除去に努めるべき」と要請、県関係者は「(三重県側が)むしろ発信器のせいで住民が不安になっている面もある、と発言していた。無責任すぎる」と厳しく指摘した。

 岐阜、三重両県の捕獲時の対応がばらばらであったことも、捕獲の難しさに拍車をかけた。今後、滋賀県を加えた3県で協議することが打ち出されているが、開催の見通しはまだ立っていない。

現状受け入れ

 一方で、地元では現状を受け入れた上での対策が進んでいる。県はクマの生態や遭遇しないための注意点をまとめ、海津市はこのデータを活用してチラシを作り来月の広報に折り込む予定。また同市では、山沿いの幼稚園と認定こども園計2園の園児や、小中学校5校の児童生徒の計1277人に「クマ鈴」の貸し出しを今月23日から始めた。

 大垣市上石津町でも南部の時地区を中心に、クマ鈴を配布したり登下校時に保護者が付き添ったりしている。時小学校PTA会長の藤田豊さん(42)=同町下山=は「森の中に入らないとか、外出時は単独行動を避けるなど、子どもたちの自己防衛意識は高く、クマの接近情報も冷静に受け止められている」と語る。

 岐阜大学野生動物管理学研究センターの森元萌弥特任助教(31)は「ツキノワグマ=(イコール)襲うという固定観念は間違い。入山時には音のするものを着用し、人が管理していない山際のクリや柿の木を切るなど、できる対策はたくさんある」と冷静な対応を呼び掛ける。

(富樫一平)