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新刊レビュー/2017年03月24日 11:37
『おあとがよろしいようで』オカヤイヅミ著 死の恐怖を食で緩和できるか
 

 食べ物愛あふれるコミックエッセイである。主人公たる書き手は何しろ「終わる」ことを恐れている。美味しいものを食べると、食べ終わるのが嫌である。ちびちび、ずーっと、飲み食いしていたい。だから「死ぬ前に食べたいもの」を聞かれると、具体的なメニュー名を考えるより先に「死んだらだらだら食いができない」とうろたえる。「ずーーっと食べ続けていれば、死を先延ばしできるのでは」とも考える。そんな彼女が、死の恐怖を克服しようと、現代文学を牽引する人気作家たちに、最後の晩餐を聞いて回ることに。この1冊は、その旅の一部始終だ。

 綿矢りさと西加奈子が、共に「豆腐」を挙げているのが興味深い。綿矢は、死ぬ前に胃もたれするのが嫌だと言う。西は「映画はたまにめっちゃ観たくなるけど、小説は毎日飽きひん。お豆腐も小説と同じでずっと食べられる」と言う。朝井リョウはここぞとばかりに「洋麺屋五右衛門」愛を炸裂させ、島田雅彦は「埼玉屋」のもつ焼きコースで書き手を淡い煙に巻く。

 それぞれが想定する「死」のシチュエーションもまた興味深い。自分の死と同時に全世界も滅亡することを大前提に語る者がいれば、1人で横になって、首元に猫が巻きついてきて、ぐるぐる言ってるのを聞きながらこと切れる、というきわめて具体的な最期を語る者もいる。だから書き手はその都度戸惑う。自分が思っている「死」と、相手が思っているそれが、まるで異なることに。しかも聞く相手ごとに「死」の様相がまるで違うことにも。

 やがてそれらの死生観から、作家自身の世界観が浮き彫りになる。ああなるほどこの作家は、世界を、人を、その生命の営みを、こういうふうに見ているから、あんな作風につながるんだ。なんていう発見が読み手を襲う。だから、読みたくなる。ここに登場する作家たちの作品を。作家たちが美味しいものを前にして、頬を緩めている姿が目に浮かぶから。

 いい本を読むこと。美味しいものを食べること。両方の悦楽の、この本はささやかな入り口なのかもしれない。

(文藝春秋 1050円+税)=小川志津子