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新刊レビュー/2017年06月23日 11:34
『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子、村上春樹著 世界的作家の無防備ぶり
 

 あらかじめヒットが約束されている本は紹介したくないが、例外にした。村上春樹に創作の裏表を聞いたこのインタビュー本は、それほど圧倒的に面白かった。

 聞き手の川上未映子は何度も驚く。「それはマジですか?」「え、そうなんですか?」「ほ、本当かなあ」。気鋭の芥川賞作家は世界的作家の無防備ぶりに驚いている。

 質問に答える村上が最も多く口にした言葉は、おそらく「わからない」「考えたこともない」「覚えていない」の3つ。自分が書いた物語の意味やテーマはわからない。川上を含む愛読者が試みる深読みについては考えたこともない。そして過去の作品の詳細や自分の発言の多くを覚えていない。

 作品のタイトルも登場人物の名前も一流の比喩もすべて、ふと頭に浮かぶ。ストーリーはあらかじめ決めず、流れに任せる。大事なのはただ、「その時を待つ」こと。そんなふうに深層意識の力を借りて小説を書く自らを、村上は原始時代に洞窟で仲間に物語を語って聞かせた語り部になぞらえている。

 徹底した無作為と対照をなすのが、1日原稿用紙10枚の執筆、長期戦に備えた節制と運動、10稿以上に及ぶ推敲といった計画性だ。無意識と意識、無作為と作為、自由と規律の懸隔にこそ、この作家の創作の秘密があるようだ。

 新作長編『騎士団長殺し』をめぐるやりとりが多くを占めるが、未読でも大丈夫。小説の創作を超えた洞察があちこちに散りばめられているからだ。未読の私は3回続けて読んだ。

(新潮社 1500円+税)=片岡義博