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新刊レビュー/2017年01月20日 11:39
『おばあちゃんはファッションモデル』渡久地恵美子著、森千波写真 祈りに似た切なる願い
 

 祖母の体調が思わしくなく、父方の田舎に来ている。ここ2、3日が山だと言われたものの、顔を見せに行ったらわずかばかりだが反応があり、誰だよもって数日とか言ったの!生きとるやないけ!と悪態をつく余裕もあった。

 盆暮れ正月にしか顔を合わせない程度なので、祖母と私はケンカひとつした記憶もない。ケンカするほど仲良くないのだ。90をとうに過ぎた祖母は、ずいぶん前から私のことが誰だかわからなくなり、私はそのずっと前から、祖母がいま何歳だか何度聞いても覚えられない。

 先日、御年94歳の女性のフォトエッセーが発売された。著者は彼女と、彼女の孫娘であるさをり織りアーティストの森千波。森は、祖母をモデルに自身の作品を着せ、写真を撮りInstagramにアップしている。

 「おばあちゃんの笑顔を一度でも多く見たい」という理由で始まったこの撮影会。写真の中の「恵美子おばあちゃん」は満面の笑みとチャーミングなポージングで華やかな衣装を着こなしてる。その姿につい自分の祖母を重ねてしまう。

 酸素吸入器を外せばあっという間に冷たくなってしまうであろう私の祖母。ページをめくる度に二人が羨ましくもあり、いやちょっと待って、私のおばあちゃんだって生きてるじゃん、と思い直す。

 思い出してくれなくても、名前を呼んでくれなくても、私が覚えているし私が名前を呼べばいい。だって生きてるもん。まだ取り返せる。まだ終わっていない。そんなことを思いながら本を閉じた。

 笑顔の向こうの、祈りに似た切なる願いが、痛いほどに伝わってくる1冊。おばあちゃんと1日でも長くいたい、いたかったすべての人に。

(飛鳥新社 1111円+税)=アリー・マントワネット)