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新刊レビュー/2017年02月24日 11:39
『殺し屋、やってます。』石持浅海著 殺しよりも惹かれる謎解き
 

 主人公は、一人の殺し屋である。依頼人の事情や動機には深入りせずに、ただ、職務のみを粛々と果たす。所定の前金が振り込まれたら、期日までに実行しなければならない。まず、ターゲットの行動パターンを探る。ターゲットが一人きりになる時間を把握するためである。けれど、そこでターゲットの奇妙な行動を殺し屋は目にする。何だかどうも引っかかる。あれは一体何だろう。

 保育士の女性が、夜な夜な、黒い水筒の中身をわざわざ公園まで捨てに来る。

 独身であるはずの青年が、ベビー用品店で、なぜか紙おむつを1パックだけ買っていく。

 この作品の、最初の面白さはそこにある。つまり、殺しそのものについての謎解きではなく、殺される側の、極めて日常的な習慣に焦点を当てている点。主人公はターゲットを調べ上げながらそれについて思考する。そして任務を遂行したあと、依頼人と自分をつなぐ「連絡役」の旧友に、その推理を語って聞かせる。

 その見解は、若干、突拍子がない。パズルのピースが全部ハマって「なるほどー!」と唸らせるというよりは「ふうん、そういう考え方もアリなのね」系のミステリーだ。つまり、推理という営みの、自由さをこの本は説いている。あくまで推測に過ぎないけれど、こうやってみんなでいろいろ考えることこそが、ミステリーの醍醐味なのだと。

 後半へ読み進むに従って、謎解きの質感が変わってくる。「日常的な謎」系から、依頼の奇妙さ加減へと軸足が移る。「首に刺し傷を二つつけて、吸血鬼に噛まれたみたいにしてくれ」とか、「あいつを殺してくれ」「やっぱやめた」「いや、やっぱり殺してくれ」とか。主人公の恋人も加わって、依頼人について推理をふくらませる。テーブルには缶ビールとビーフジャーキー。それが彼らの定番スタイルだ。

 そして最終章。主人公の前に提示されたターゲットの写真には、主人公自身が映っている。プロフェッショナルな殺し屋として、不合理な事情がない限り、仕事を断ることのない主人公。少し考えたのち、この仕事を引き受ける。そう、引き受けちゃうのである。その顛末は、ぜひご一読を。

(文藝春秋 1400円+税)=小川志津子