エンタメTop
おすすめシネマ
音楽玉手箱
フロントライン
 
新刊レビュー/2017年11月10日 11:48
『「母親に、死んで欲しい」』NHKスペシャル取材班著 介護殺人はなぜ起きたか
 

 介護の果て、最愛の家族に手をかける事件が後を絶たない。その加害者の声を伝えたNHKスペシャル「私は家族を殺した」(昨年7月放送)をもとに記者たちが書き下ろしたルポ。読み進むうちに慄然とし、本を閉じた後は暗然たる思いに沈んだ。

 NHKの調べでは、過去6年間で「介護殺人」は2週間に1件の割合で起きている。取り上げた全国11のケースのうち、ほとんどは認知症が進んだ家族の介護で肉体的、精神的に追い詰められた末の犯行だ。

 加害者の告白が痛切極まる。「私は母のことを、母の皮をかぶった化け物だと思っていました」(50代男性)、「後悔はしてない。悪いことしたとは思うてる。でも、ああするよりほかなかった」(70代女性)、「家族が何人いても、結局介護者は一人だけです」(40代女性)。

 意外にも事件の多くは長期介護の末ではなく、介護を始めて間もない時期に起こっている。初めて直面する過酷な現実に追い詰められる家族の姿が浮かび上がる。

 地域から孤立した家庭とも限らない。理想的に見える家族ほど地域や行政に助けを求めず、外側も異変に気づきにくい。加害者には介護ヘルパー歴20年の女性もいた。

 あるデイサービス施設長の「在宅介護を進めれば進めるほど、介護殺人は増えると思う」という言葉が重く響く。

 解決策は見出せない。聞けば聞くほど一線を越える人と越えない人の境界が分からなくなる−−−。取材者たちの立ちすくむ姿がそのまま差し出されている。

(新潮社 1300円+税)=片岡義博