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エンタメ・フロントライン/2017年10月12日 11:13
『ワンピース』、制約の挑発 深田晃司、井坂優介ら7監督も初挑戦
鈴木卓爾監督(左)と矢口史靖監督(撮影:堀田弘明)
 

▼<カメラは固定、編集なし、アフレコなし>がルールの『ONE PIECE(ワンピース)』をご存知だろうか。矢口史靖監督(『ウォーターボーイズ』)と鈴木卓爾監督(『ゲゲゲの女房』)が1994年から続けている1話完結の超短編映画プロジェクトだ。過去63作品から選りすぐった13本を海外の映画祭で紹介すべく、英語字幕を入れた『ワンピース・インターナショナル・クラシックス』と、両監督より若い世代の7人が競作した『ワンピース・チャレンジ!』が先日、第39回PFF(ぴあフィルムフェスティバル、東京)で上映された。監督たちが製作の苦悩と発見を語るアフタートークも面白く、自分も撮ってみたいと撮影欲を刺激されるプログラムだった。

▼今後、京都シネマ(京都市)で10月19日夜に『クラシックス』、翌20日夜に『チャレンジ!』が上映されるほか、年内に東京で開くPFFのイベントでも上映されそうだ。

▼『クラシックス』の最初の作品は、矢口作品『春のバカ。』(1988年)。家の庭で散髪してもらっている男と、散髪している恋人とののんびりした会話場面が、珍事件へと展開する。撮る場所、人物の出し入れ、奥行きの使い方など、ワンピースでできることがスルッと飲み込める秀作。一方、鈴木作品の一つ『サウンド・オブ・中学教師』(1998年)は、河川敷から遠めに土手を見上げる広い画面を教師役3人がいっぱいに使い、ちょっとミュージカルする娯楽作だ。

▼『チャレンジ!』でワンピースに初挑戦した監督は、吉田光希、黒川幸則、井坂優介、今泉力哉、松野泉、深田晃司、三宅唱の男性7人。欲を言えば女性監督も入っていてほしかったが、それは今後に期待しよう。吉田と今泉は二人とも鏡を使った作品で、吉田は「一番最初にフレームを考えちゃいました。そして鏡という誘惑に負けた」と苦笑。画面を複数の人で埋めた黒川は「必ずみんな奥行きをつくってくるだろうと思ったので、まずそれを(自分に)封じた」と言った。

▼最年少、88年生まれの井坂は、学生時代から全く知らない人とスカイプで話し、ニコニコ生放送を楽しんだという人だ。かつて、あるお爺さんがネットでの生中継の最中に急変して倒れたのを目撃。井坂ら視聴者たちはお爺さんの住所などもちろん知らず、どこへ救急車を呼べばいいか分からない。過去の中継から分かっていた情報を視聴者みんなでかき集めて助けたという経験を持つ。今回、その実話にヒントを得て撮ったユニークな作品『あんずちゃん』で爆笑を起こした。「一番苦労したのは何を撮るか。すごく考えちゃった」と井坂。

▼ワンピース作品を見ていると、自然と“映画の父”リュミエール兄弟の原初的な作品を思い浮かべることになる。1895年、彼らが発表した世界初の実写映画は、工場から出てくる人々を固定カメラで写しただけの1分間に満たないものだった。深田は自身がワークショップを開くと、よくリュミエール方式で、カメラを止めずに60秒で1本撮るということをやるそうだ。そして今回初めてワンピースを撮り、あらためて「撮りたいものが見つかるって大事だな」と語った。深田作品はワンピース初のドキュメンタリーだった。

▼既に長編の劇場公開作を撮っている監督たちが、ワンピースという制約付きフォーマットと向き合うと、気付きを得たり、映画って何だ?と自問しているのが興味深い。今泉は「演劇とか、コント、YouTube(に投稿される動画)との違いって何だろう。YouTuberの人が下に見られたり、映画は立派だと思っている人が多いけど、自分はあんまり思わない」と語った。

▼今回、当然ながらiPhoneで撮った監督もいたし、米国映画『タンジェリン』のように劇場用長編にもiPhoneで全編撮影された作品は既にある。デジタルの手軽さから、今や見るよりも撮るを先に経験したという人も増えている。矢口は満席の会場を見ながら、「(ワンピースを紹介すると)映画って誰でも撮れちゃうってことがバレちゃう」と言った。観賞していると、友人と2、3人で飲みにでも行ったら「ここで今ちょっと映画撮ろうか」と言ってしまいそうになる。「何が映画か」よりも「これも映画だ」と柔らかく構えると、自由で、これからの変化も楽しめそうだ。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第103回=共同通信記者)

☆『ワンピース・チャレンジ!』の東京での再上映情報は、決定すればPFFの公式サイトに掲載される。

☆『ワンピース・インターナショナル・クラシックス』の作品群は、今年発売されたDVD『ONE PIECE COLLECTION テトラパック』にも収録されている。