エンタメTop
新刊レビュー
おすすめシネマ
音楽玉手箱
 
エンタメ・フロントライン/2017年11月09日 14:59
静寂を愛でるのは、あの映画の影響  ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ジョン・ラセター
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督=東京・六本木
 

▼『ブレードランナー 2049』(公開中)のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督にインタビューしていたら、「私がこれまで見た映画の中で、最上の緊張感だと思う場面の一つは、クロサワの『七人の侍』の中にある」と語りだした。「花畑の中、1人の侍が木の根元に座って花を見ている。何も起きない。とても静かだ。そして、突然バイオレンスが起きる。私はものすごく衝撃を受けた。静寂にある緊張が素晴らしい。編集もいい。若いころに見たこの場面が、私に多くの変化をもたらしたんだ」

▼ヴィルヌーヴ監督の話を聞いて、すぐに頭に浮かんだのが、ディズニーとピクサー、2つのアニメーションスタジオのトップ、ジョン・ラセターの話だ。彼は2014年10月、東京国際映画祭で講演し、敬愛する宮崎駿監督の作品にどれだけ影響を受けてきたかを、幾つかの場面を上映して熱弁した。「映画史上、最も素晴らしい場面」という最上級の賛辞とともに上映したのが、『となりのトトロ』の下記の場面。

▼雨の夜、森を通る道にあるバス停。少女サツキが幼い妹メイをおんぶし、父親の帰りを待っていると、トトロが現れる。<トトロの鼻先に落ちる水滴が「ポピン、ポピン」とはねる>、<サツキがトトロに貸そうと父親用の傘を「バッ」と開く>、<暫く雨音だけが響く>、<木の葉から落ちた雨粒が傘に当たってパラパラと音を立てる>。その音を気に入ったトトロがジャンプして地面を揺らし、<木から土砂降りのごとく水滴が落ちる>。それぞれの音が森の静寂の中で引き立ち、その音がかえって静寂を引き立てる。遠くにバスのヘッドライト。それが縦に弾むように近づいてきて、滑り込むように到着したのは普通のバスではなく、ネコバス!

▼ラセターは言った。「宮崎監督は静かな瞬間を愛でるんです。何も起こっていないのにとても美しい。ハリウッド映画とは反対です。『観客は退屈したらポップコーンを買いに行ってしまうぞ』という作り方とは全く違う。静かな瞬間を祝福し、その後に来るものを際立たせている。そういう場面があるからネコバスが到着する瞬間が、さらに際立つのです」

▼最後にラセターが上映したのが、日本公開を2カ月後に控えていたディズニーの『ベイマックス』から、「ファーストフライト(初飛行)」と名付けた場面だ。

▼主人公の少年ヒロが、ベイマックスの背中に乗って飛行能力をテストする。未来都市サンフランソウキョウの上空へ飛び立ったはいいが、ベイマックスは危なっかしい不安定な飛行の末、湾をまたぐ巨大な橋へ。上昇して高い主塔のてっぺんに立つ。背中でヒロが「今日はもうこのへんにしとく? どう思う? 」と聞くと、「(ヒロの)神経伝達物質の数値が上昇しました」とベイマックス。「それってどういうこと?」、「とてもいい傾向です」。だが直後、ベイマックスは電源が切れたかのように、直立の姿勢のまま、静かにゆっくりと、斜め後ろへ棒っきれのように倒れていき、海へと真っ逆さま。しかし海面すれすれで方向転換し、猛スピードの超低空飛行へ。さっきの危なっかしさとは打って変わって、かっこよく飛び回る。「これが私たちの新作です」。ラセターは笑みを浮かべ、講演を終えた。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第104回=共同通信記者)