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エンタメ・フロントライン/2017年12月14日 15:29
スター・ウォーズも従来型ヒロイズム脱却? 加速するハリウッド変化の波
映画『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』の来日会見で登壇したルーカスフィルム社長のキャスリーン・ケネディ(左端)ら。
 

▼スター・ウォーズ(SW)のエピソード8『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』(12月15日公開)は、敵を倒すだけの従来型ヒロイズムから脱却しようとしている。この3部作を締めくくる9話がどこへ着地するのか、今から楽しみだ。

▼1作目の4話『新たなる希望』(1977年)は、ジェダイの騎士であるルークや、仲間となったハン・ソロら男たちが帝国軍のデス・スターを爆破し、華々しく表彰されて幕を閉じた。男性優位と従来型ヒロイズムの典型だ。5話『帝国の逆襲』(80年)を経て、6話のタイトルは当初『ジェダイの復讐』(83年)だったが、「復讐」は光と希望の存在たるジェダイの精神にそぐわないと、ジョージ・ルーカスが『ジェダイの帰還』に差し替えた。

▼それから32年ぶりに物語が前に進んだ7話『フォースの覚醒』(2015年)では、主人公が女性になった。製作を取り仕切るルーカスフィルム社長も女性のキャスリーン・ケネディであるとはいえ、この時点では、女性を主役に据えた理由は「これからはもっと女性ファンも増やしたい」という狙いによるもの、との印象が強かった。

▼ところが、最新作8話では、従来型ヒロイズムの変更が、明確にせりふによって複数回示され、それを口にするのはいずれも女性。しかも、高い地位にいる女性も、現場で駆け回る女性も、優しさがあって芯が強いという描かれ方で、時代は変わったのだ、というメッセージの発信だと映る。

▼米国では、大物有名人たちが次々にセクハラで告発され、騒動は拡大の一途。SWを配給するディズニーでも、ディズニー・アニメーションとピクサーという傘下2つのアニメスタジオのトップ、ジョン・ラセターが、セクハラが原因で6カ月の休職に入ったばかり。

▼先日、女優ジェシカ・チャステインが、映画『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』の公開を前に来日したので、現状を聞くと、「全ての業界でセクハラ問題が表に出てきていて、変化の兆しにワクワクしています。女性たちの上司として男性たちがいるという構造が、セクハラの大きな原因の一つだと思うから、職場の男女のバランスを変えるべき。リーダー的ポジションに女性が就くのは有効だと思います。今作が好例で…」と言った。主演とプロデュースはジェシカ自身で、監督、脚本家、原作者、スタント指導も女性という座組み。「それで撮影現場は、女性も男性もハッピーでしたよ」と笑った。

 「映画業界が描く女性像は、いまだにステレオタイプが多いですよね。古風な女性とはこうあるべきといったイメージを変える原動力になる、現実に即した女性が描かれるようになるといいなと思います」。さらに、実在した主人公がズボンは履かず、口紅やマニキュアも好きだったそうで、「偉業を成し遂げた彼女が、そこまで女性的だったことに驚きました。彼女は愛と思いやりで戦った。ヒーローとは何か、再定義する機会になると思います」と語った。

▼ハリウッドにはいくらでもスター女優がいて華やかではないかと思いがちだが、女性の境遇がどういうものか、2016年、ケイト・ブランシェットが来日した際に端的に話してくれた。1950年代を舞台に女性同士の恋を描いた『キャロル』で主演・製作を務めたのだが、脚本に出会ってから映画化にこぎつけるまで7年かかった。「美しい脚本なのに製作費がなかなか集まらなかった。信じられないかもしれないけれど、主人公が女性2人だから。もしクリスチャン・ベールとエディ・レッドメインなら、あっという間に作られていたと思う」

▼世界を席巻するハリウッド映画界において、近年強まっていた、性別や人種による配役・処遇の格差を是正せよ、という流れや、描くヒロイズムの変化、あるいはそれらについて人々が意見表明する動きが、今年はさらに加速した印象だ。2月のアカデミー賞では、詩的で起伏の少ない黒人のみのドラマで低予算の『ムーンライト』が作品賞受賞。ロサンゼルス・タイムズ紙は、「従来アカデミー会員たちが快く賞を与えてきたのは、白人男性の劇的な物語が主流だ」とした上で、「『ムーンライト』は従来型の男らしさの再確立ではなく、破壊するものだ」「自分と違う人々を見て、理解し、共感し、つながる映画だ」と選出を評価した。

▼ザ・アメリカンヒーローといえる大作映画スパイダーマンさえも、今年の『スパイダーマン:ホームカミング』ではヒロインが白人ではなくなった。そして女性ヒーロー『ワンダーウーマン』(WW)が大ヒット。原作コミックは1941年に誕生し、研究家たちが「WWは各時代の女性運動の状況を反映し、フェミニストとしてファシズムに対抗した」「50年代の米国は共産主義の台頭が出版業界をおびえさせ、WWの描かれ方も保守的になり…」と時代ごとの変化を指摘した一方、主演のガル・ガドットやパティ・ジェンキンス監督は「フェミニズム映画として捉えず、性別を超えた部分を感じてほしい」とポストフェミニズムを志向する発言をした。「結局は暴力的」「白人の映画」「弱さは悪、強さは善と描いている」という批判もあったが、それは従来のヒーロー映画全般にいえること。まずは女性ヒーローと女性監督でも、大ヒットはもちろん可能なのだと証明したことは、次なる変化の波を呼ぶだろう。

▼また、人種差別を風刺したスリラーで、笑いも融合させた『ゲット・アウト』が、低予算ながら大ヒット。批評的にも成功を収め、来年3月までの数々の賞レースにも絡んでいる点にも注目だ。白人女性と交際している黒人男性が、彼女の実家に招かれる。彼女の両親はリベラルな白人夫婦のはずが、実は差別意識があり…。という『招かれざる客』(1967年)の設定を踏襲しつつ、スリラーへと分岐する。結局、差別の状況は半世紀も前の映画と同じであることを思い知らされ、相変わらずな現実の方がスリラーかもしれないと感じさせる秀作だ。

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第105回=共同通信記者)