ふるさとへの便り

モロッコ

空き地で“即席授業”
写真:運動場で準備体操をする子どもたち=モロッコ

運動場で準備体操をする子どもたち=モロッコ

 道路には、高級車ベンツやアウディと共に、ロバや馬が並走している。ここはアフリカ大陸最北端の国モロッコ。イスラムの文化とヨーロッパの文化が入り混じった国。私は今、小さな町で小学校教諭として活動している。

 モロッコの小学校では、まだまだ体育が実施されていないことが多い。サッカー好きの国民性が反映してか、児童は「体育=サッカー」だと思っている。近所にアミンという4年生の男の子がいる。学校での彼は負けん気が強くて、授業中でも友達とけんかをしたり、リレーのために並んでいてもいつの間にか横入りをして最前列にちょこんと立っていたりする。これがモロッコの子どもたちの当たり前な姿。しかし、学校から帰るとアミンはいつもお父さんの商店で5リットルの水を何本も運ぶなど、手伝いをしてから遊びに行く。

 ある日、いつものように学校へ行こうとしたら、とっくに登校している時間のはずなのにアミンが目の前でサッカーをして遊んでいる。「あれ?学校は?」と尋ねると、「今日は先生、病気でお休みだからなし」と返ってくる。モロッコではこういうことも当たり前。がっくりして家に帰ろうとしたらアミンが思いついたように言った。「ナオ、ここでさ、体育やってよ!」。そしてあっという間に、石がゴロゴロ転がっているような小さな広場に仲間を集めてきて、「いつものアレやってよ!」と手首をグルグル回して催促をしてくる。

 アレとは準備体操の「手首足首」のこと。サッカーしかしていなかった体育の授業を変えようとまずは準備体操を教えたら、なぜかモロッコの子どもたちは手首足首をグルグル回すあの単純な動きが気に入って、いつも大盛り上がりで「手首足首」をするようになった。その日は青空の下、数人を相手に空き地で即席体育の授業を行った。

 日本では当たり前のことが、モロッコでは珍しい。モロッコの「当たり前」に、新しいことを根付かせることは一朝一夕にはいかないが、それは「当たり前」じゃないかもしれないことに気付いてもらいたいと思う。それが、自分ではない他の人と触れ合う面白さだと思うから。さて、皆さんの「当たり前」は、本当に「当たり前」?

【橋本奈央さん】
写真:橋本奈央さんさん
 はしもと なお 小学校教諭を経て、2013年7月から青年海外協力隊員としてモロッコに派遣。小学校教諭として情操教育の普及に務める。関市出身。30歳。

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