ふるさとへの便り

モロッコ

ルール違う教育現場
写真:体育でおにごっこをする小学生=モロッコ、タハナウト

体育でおにごっこをする小学生=モロッコ、タハナウト

 「先生、イスマイルがパンをかじってます」

 「先生、サリマとマリアムが水飲みに行って帰ってきません」

 「先生、ワリドが僕をたたきました。だから棒でたたいてください」

 ここは北アフリカ、イスラム教の国モロッコ。私はここで青年海外協力隊員として1年5カ月を過ごしている。私の主な活動内容は、小学校での情操教育の普及。活動2年目となった今年も二つの小学校で体育を、一つの小学校で図工を実施している。冒頭の会話は、私の体育の授業での子どもたちの言葉である。パンをかじる?いなくなる?棒でたたく?日本の小学校の現場ではどれもなかなか考えられない状況である。日本でずっと暮らし育ってきた私にはそのどれもが「ルール違反」に見える。

 しかし、それらにはどれも理由がある。給食制度がないモロッコではお昼の2時間はみんな自宅へいったん帰る。しかし学校から家まで徒歩で約1時間かかるイスマイルくんはパンを持ってこざるを得ない。今まで体育というものを全く経験してこなかった子どもたち。彼らにとっては校庭で運動できるというだけで大きな喜びなのだが、そこにはみんなが安全に運動するためのルールがあるということを知らない。モロッコではいまだに体罰が多い。誰かが悪いことをすると、他の児童が「先生、これでこの子たたいて」と体罰用の棒(こちらの言葉でチヨと呼ぶ)を持ってくるが、それは大人が普段そうしているから。

 ここモロッコで1年5カ月を過ごし、私が学んだこと、それは「私のルールは私しか知らない」ということだった。社会が違えば、ルールもマナーも全く違う。私から見たら「ルール違反」だからと腹を立てているだけでは、先へ進めない。とはいえ、ときには感情が爆発することもある。泣きながら怒ることもある。しかし、最後にはいつも子どもたちは「ナオありがとう」と笑顔で私の?にキスをして(こちらの習慣)家に帰っていく。そんな笑顔を見せられたら…。頑張るしかない!と思わせられる。残り4カ月。子どもたちに少しでも多くの経験をさせてあげたい。ときに見方を変えながら、ときにけんかをしながら。

【橋本奈央さん】
写真:橋本奈央さんさん
 はしもと・なお 小学校教諭を経て、2013年7月から現職教員特別参加制度で青年海外協力隊員としてモロッコに派遣。小学校教諭として情操教育の普及に務める。関市出身。30歳。

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