ふるさとへの便り

ネパール

演劇で地震防災教育
写真:ヘルメットの重要性を演技の中で伝える出演者=ネパール・バグルン郡

ヘルメットの重要性を演技の中で伝える出演者=ネパール・バグルン郡

 ネパールが震災に見舞われるなど思いもしなかった。大きな揺れになって屋外に出てみると、既に人々は空き地に避難していた。多くは無防備のまま、立ちすくむように。

 人々は畑で数日間野宿をした。外で寝起きせねばいけないほどの揺れではなかったが、地震を全く知らない人々の恐怖は計り知れない。

 その恐怖を軽減できないだろうかと考え、バグルン郡の公立中学校と、「防災教育デー」というイベントを学生主体で企画することにした。縁あって赴任直後から異文化理解教育を共に行ってきた静岡県の私立浜松学院中学校はすぐに支援を開始、6月の文化祭で支援金を集めてくれた。お陰でこのイベントの費用を確保することができた。

 ネパールの学生たちが防災教育を体感できるように舞台製作をしようと提案し、「非常持ち出し袋」というお題で、学生に自由に物語を書かせた。それらを全て吸収した脚本を元に一カ月半猛特訓をした。そのうちに権威的な村の医師、村のコミュニティーを支える村長、茶を振る舞う明るい店主らが彼らの想像力から生まれてきた。地震の表現方法も考えた。地震は「音で表せばいい!」と大発見、静かにそして次第に荒くテーブルをたたく。うまい。乗り気になってきた時、防災に必要なヘルメット、食料品、ライトなどの備品を用意し持たせてみた。様になってきた。仕上がる頃には、舞台製作に関わった学生にとって地震はずっと身近なものになり、地震と聞けば瞬間的に非常持ち出し袋とその中身を思い出すことができるまでになった。

 当日、350人の生徒、教師と来賓の前で舞台を披露した。緊張して声が出ない時もあったが、観客はスクールメイトの演技にすっかり見入っている。虚構の中で地震が本気で語られている。防災準備を促す機会としても、同年代の演劇には説得力があった。

 ネパールの新しい課題である防災教育は、災害の存在を身近で創造的な作業を通して、認識の中へ落とし込んでいくことに第一歩があるように感じた。

【伊藤理恵子さん】
写真:伊藤理恵子さんさん
 伊藤理恵子(いとう・りえこ) 大学で文学と政治学を学び、2014年3月から青年海外協力隊としてネパールに派遣。コミュニティー開発の視点からバグルン郡で生活向上支援に取り組む。各務原市出身。25歳。

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