ふるさとへの便り

タイ

転換点を迎えた産業
写真:タイのセブンイレブンのオーナーはタイ財閥大手CP。商品の9割近くが食料品でCPの商品が大半を占める

タイのセブンイレブンのオーナーはタイ財閥大手CP。商品の9割近くが食料品でCPの商品が大半を占める

 「ルイスの転換点」というイギリスの経済学者が提唱した概念があります。これは製造業の発展に伴い、農業部門から、より給与水準の高い製造業部門へと労働力が移動することで余剰労働力がなくなり、移転人口が底をつく時点を指します。日本では1960年代後半にルイスの転換点を迎えたと言われています。

 現在、タイの農業部門の就業者数は就業人口の約30%を占め、経済学的にはまだルイスの転換点に達していないと言われています。そのため、理論的には今後も農業から製造業へと労働力が移動し、製造業を中心とした経済成長が続くと考えられます。

 しかし、タイでは少子高齢化により農業就業者の高齢化が進み、地方から都市部に向かう若年労働者が少なくなっているため、農業から製造業へ労働力が供給されていないようです。実態としてタイは、既にルイスの転換点を迎えてしまっているのではないでしょうか。

 こうした中、タイ政府は「中所得国の罠」を回避すべく高付加価値産業を誘致し、産業構造の転換を図っています。高付加価値産業へのシフトによって平均賃金が上がれば、製造業企業は生産工程の自動化を強力に推し進め、人員削減を行うと考えられます。タイは「アジアのデトロイト」とも呼ばれるほど、自動車産業が盛んでタイ経済をけん引する産業としてクローズアップされてきました。今後は生産工程の自動化によって製造業からあふれた労働者が、さまざまな分野へシフトしていくと予想されます。

 タイは自動車産業以外にも多くの強みを持っています。特に年間3000万人を超える観光客を受け入れる観光業、国内農産品を活用した食品加工業、東南アジアでは突出した水準にある医療分野、さらに所得水準の向上を受けた小売業などが有力です。このようなサービス産業は現在、主に大手財閥グループが中心となって展開されていますが、これは外国企業によるサービス産業への単独投資が難しいことが原因の一つとなっています。

 例えば、大手財閥であるCPグループが展開する「セブンイレブン」は、既に1万店を超えていますが、品ぞろえのほとんどはCPグループが生産する加工食品で、日本のコンビニエンスストアと比べると決して面白みがある場所ではありません。残念ながら、タイのサービス業は決して生産性が高いとは言えません。

 今後、生産性の高い海外のサービス業がタイ企業とタイアップし、この国のさらなる成長をけん引していくことを期待しています。ルイスの転換点は、日本などの先進国が成長を遂げる過程で生まれた経済概念ですが、タイは自国の強みでもあるサービス産業を発展させることにより、新たな経済成長スタイルを見いだせるかも知れません。

【臼井英樹さん】
写真:臼井英樹さんさん
 臼井英樹(うすい・ひでき) 1990年大垣共立銀行入行。ニューヨーク支店、市場金融部、香港駐在員事務所を経て、2014年4月からバンコック駐在員事務所所長として取引先の海外進出支援などを担当。大垣市出身。

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