ジャポネス・ガランチード 岐阜からブラジル移民100周年

第2部 マルセロ(5)奇跡の国立大合格

高校は進学コース、「鬼」にしごかれる
写真:"ブラジル出身の生徒と話す船戸宙治(右)=美濃加茂市本郷町、美濃加茂高校"

ブラジル出身の生徒と話す船戸宙治(右)=美濃加茂市本郷町、美濃加茂高校

 美濃加茂高校(美濃加茂市本郷町)に推薦入試で進んだ日系ブラジル人3世の渡辺マルセロ(34)は、当時を笑いながら振り返る。「地獄だったよ」。

 サッカー部に入部し、放課後は友達と遊ぶつもりだった。だが、なぜか入ったのは国公立大学進学を目指す「蛍雪コース」。部活は禁止。毎日膨大な量の宿題を課された。終わるのは午前2時、3時。来日して5年目、という個人的な事情は全く特別扱いされず、日本人生徒と平等に受験勉強の世界に放り込まれた。マルセロを含め何人かの生徒は猛勉強と寝不足で、授業中に鼻血を流した。

 地獄には鬼がいる。その名は船戸宙治(50)といった。英語教師で1年時の担任。マルセロにとって恐怖そのものだった。

 授業で英単語の意味を問われ、「分かりません」と答えると怒られた。船戸は「予習をしていれば、単語の意味は辞書で分かる。分かりません、じゃない。調べてませんと答えるんだ」。椅子の上での正座を命じられた。

 マルセロは食らいついた。ブラジル出身であろうとなんであろうと、努力すれば成績は伸びた。古典のテストではクラス2位を取った。英語の授業では机の上に英和、国語、ポルトガル語の三つの辞書を置いた。毎日、日付けが変わるまで宿題をした。

 すると勉強が分かってきた。加茂高校などに進学した中学校の同級生と話していて、自分のレベルが上がっているのが分かった。追い付けるかもしれない。欲が出た。猛勉強は大学進学を現実的な選択肢にしていた。

 学費が安い国立大ならいいと親は了解した。英語が得意だったマルセロは岐阜大学教育学部英語学科だけを受け、合格した。「ミラクルだった。今の自分があるのは、あれだけしごかれたから」と深く感謝する。

 船戸は情熱あふれる指導から、今も美濃加茂高校で親しみを込めて鬼と呼ばれている。船戸は「マルセロが美濃加茂高校の新しいドアを一つ開いた」と言う。

 初めてのブラジル出身の生徒だったマルセロが国立大に入ったことは、教師陣にも自信になった。「僕も彼から勉強させてもらった」

 今、同校にはブラジルやフィリピン出身だったり、帰国子女の生徒が少なくない。そうした生徒が不安を漏らしたりすると、船戸はマルセロの話をする。努力で自分自身の人生をつかみ取った先輩の話だ。マルセロの後輩たちも卒業後はたいてい大学などに進学する。高校を中退するケースはないという。

(敬称略)