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精神科医 塩入俊樹氏氏
うつ病シリーズの最後は、うつ病の原因のお話をします。身体の病気と同様に、うつ病にも病気が起こる原因があるはずです。近年、脳の活動を画像でとらえる技術が発達し、うつ病患者さんの脳の変化が、研究段階ではありますが、少しずつ解明されています。
典型的なうつ病患者さんの脳では、前頭葉、帯状回、線条体などの活動性の低下と扁桃体(へんとうたい)の過活動が認められます=図参照=。前頭葉はヒトで最も発達し、認知機能や感情調整だけでなく、さまざまな環境に適切に対処する能力(社会的行動)や、「闘争や逃走」など、危険を感知した時に生じる体の反応(情動反応)などにも深く関わっています。また、線条体という部位の機能低下はうつ病患者さんの行動や思考を鈍らせることが知られています。ストレスにより不安な気持ちを引き起こす扁桃体については、それを抑制する働きをもつ前頭葉の活動が低下しているために扁桃体が過活動となり、不安が増強されるものと推測されます。そして、うつ病期に見られるこのような異常が、うつ症状が改善されると正常化されます。
うつ病では、前述したさまざまな脳部位で機能変化が生じますが、特定の部分の機能だけが原因で起きる病気ではなく、脳のさまざまな部位同士をつなぐ神経の回路、つまり神経ネットワークが、気分のコントロールに関わっていると言われています。そしてこの神経ネットワークにかかわる物質の代表的なものに、「セロトニン」という神経伝達物質があります。うつ病の患者さんの脳では、このセロトニンが減少していると考えられています。以前に治療の回でもお話したうつ病の治療薬である「抗うつ薬」の中には、セロトニンを増やす作用を持つものもいくつかあります。セロトニン以外にもうつ病では、ノルアドレナリンやドーパミンなど、他の神経伝達物質の低下の報告もあります。また、最近注目されている物質として、「BDNF(脳由来神経栄養因子)」があります。BDNFは、脳の中で新しい神経細胞を作り、神経ネットワークを維持するために必要な物質です。うつ病の患者さんではこのBDNFが少なくなり、気分をコントロールする神経ネットワークがうまく働かなくなっていますが、適切な服薬(抗うつ薬など)と休養によって、徐々に増えていくと言われています。
(岐阜大学医学部付属病院教授)
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