岐阜大学精神科医 塩入俊樹

 強迫性障害は、どんな人がなりやすいのでしょうか? 実は、男性と女性では、病気になりやすい年齢が違うようです。海外のデータでは、男性は女性より発病が早く、8〜13歳と言われています。例えば、最初は小学生ぐらいから「この子、よく手洗いするな」と思っていたのが段々(だんだん)ひどくなって、そのうち学校に遅刻したり、行けなくなったりすることもあります。

 通常、男の子は泥んこの手で平気でおやつを食べたりしますが、それが早くから汚いと感じて、何度も何度も、長い間手洗いをする。もちろん、親のしつけもあるかもしれませんが、しつけの厳しい子が全て強迫性障害という病気にかかるわけではないので、やはり、発病に関わる要因があって、手が汚いという強迫観念が生まれてくるのだと思います。

 一方、女性の好発年齢は、20代と言われています。典型的なケースは、出産や就職などの生活上の大きな出来事、ライフイベントと言いますが、これを契機に発病することが多いようです。例えば、赤ちゃんは手当たり次第、いろんなものをなめますね。だから、赤ちゃんが生まれると母親は、衛生に対して非常に敏感になってくるのです。それを契機に「あれも汚い」「これも汚い」と、自分の手洗いはもちろん、いろいろな所を拭きまくり、逆に汚いと感じて触れなくなったりするわけです。

 あるいは、就職。特に事務系の仕事の場合、重要な書類の数字が合っているかどうかなど仕事上の確認が契機となって、いくらチェックしても安心できなくなり、何度も確認行為を繰り返して仕事効率が極端に低下し、発病する人もいます。

 強迫性障害の原因やこの病気になる要因としてはっきりとしたものは、いまだ分かっていません。しかしながら、生まれ持った性格や心理的ストレス、そしてストレスに対する脆弱(ぜいじゃく)性なども、発病に関与しているかともいわれています。

 さらに最近では、そうした心理学的な側面だけでなく、他の心の病気もそうですが、脳における何らかの機能不全状態が、強迫性障害という病気の症状を起こさせている、と考えられるようになってきています。そして、特に注目されている脳部位の一つが、前頭前野という部分です。脳の中で、ヒトをヒトたらしめている最も重要な部分は、前頭葉と言われる所で、皆さんの目の上から額の奥にある脳です。そして、その前頭葉の大部分を占めているのが前頭前野という部分で、いわば、人間の脳の司令塔みたいな場所なのです。強迫性障害の患者さんは、その前頭前野の、特に目の上辺りの眼窩(がんか)前頭前野という部分が、異常に活動していることが分かっています。ですから、心の病気と言っても脳の何らかの機能障害の結果、症状が出てくるという捉え方を、私たち精神科医はしています。

(岐阜大学医学部付属病院教授)