循環器内科医 上野勝己

 冠動脈狭窄(きょうさく)症のカテーテル治療の要はステントです。1994年に初めて日本でステント(ベアメタルステント)が使用された当時は、異物のステントを冠動脈に入れることでの長期的な影響が不明だったことと、ステントと血液が反応し、急激に冠動脈内に血栓が形成されて起こる血栓性閉塞(へいそく)(ステント血栓症)が10%近くあることから、バルーンで拡張できない緊急時に使われるのみでした。しかし、パナルジンという抗血小板薬を飲むことで、血栓症が0.5%まで減少することが分かってから、冠動脈狭窄治療の切り札となりました。

 しかし、ステント血栓症以外にも弱点がありました。再発・再狭窄です。血栓性閉塞(へいそく)の原因は、ステントが血管内でむき出しであることです。しかし植え込みから約1カ月で、ステントの表面は新生内膜という膜に覆われ、完全に血管壁内に埋没して血栓症は起こらなくなると分かりました。そうなると、抗血小板薬を飲まなくてもよくなります。

 この反応は血管治療後の正常な治癒反応なのですが、新生内膜がケロイドのように分厚く張り過ぎると、血管内腔をふさいで狭窄を起こすのです。これがステント再狭窄です。再発率は20〜30%で、いったん再発すると繰り返す傾向があります。

 これを何とかしようとしたのが、薬物溶出ステントです。ステントの表面を薄い膜のポリマーで覆い、新生内膜の増殖を抑える薬(イースター島の土壌から発見)を溶け込ませました。これにより10%未満まで再狭窄は抑制されました。

 しかし、ステント血栓症が再燃し原因はさらに複雑になりました。新生内膜の発生を抑制し過ぎたために、ステントがむき出しの状態であるだけでなく、ポリマーが異物として働き、ステント内に悪性動脈硬化ができることで、ステントの植え込みから1年以降も、突然にステントが閉塞する事例が報告されるようになりました。急激に閉塞して急性心筋梗塞を引き起こすため、非常に危険な合併症です。

 再発も含め、冠動脈に何らかの悪性のイベントが起きる可能性は、第二世代と呼ばれる薬物溶出ステントでも毎年2%ずつ起こり、1年目には10%未満の再発も5年たつと20%弱に起き、ベアメタルステントと同じになってしまいました。血栓性閉塞は、ベアメタルステントでは1年以降ほとんど認めないことから、むしろ悪いとも考えられます。

 この対策として開発されたのが生体吸収性ポリマーです。3〜4カ月でポリマー自体が吸収されて消えてベアメタルステントになるため、慢性期にポリマーによる悪性反応が起きません。3〜4カ月はしっかり薬が効くのでステント再狭窄も10%未満です。ポリマーを血管壁側にだけ塗るので、ステントは約1カ月で新生内膜に覆われて血栓性閉塞への備えも十分です。ベアメタルステントと同様、1年以降の血栓性閉塞は極めて少ないのです。

 昨年の暮れから、2種類の生体吸収性ポリマーを搭載したステントが相次いで発売されました。これは薬物溶出ステントの完成形の一つで、患者にとって大きな朗報と言えます。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)