岐阜大学精神科医 塩入俊樹

写真:身長の比較
身長の比較

 前回は心の「発達」を「身長」の伸びに例えましたが、今回も「低身長」のお話からです。

 「低身長」は“大幅に”平均よりも低い場合、問題となります。その一部には、明らかな原因があり、治療可能なものもあります。例えば、成長ホルモンの分泌低下で起こる「低身長」では、成長ホルモンそのものの投与によって治療されます。もちろん、少し身長が低いだけで、安易に成長ホルモンの投与はできません。

 では、その“大幅に”平均より低いことの目安、つまり正常と異常、あるいは治療をするか否かの線引きは、どうなっているのでしょうか。図は、全国の小学校1年生1万人の身長を、横軸に「身長」、縦軸に「人数」を取って作成したグラフです。前回と同様、背の低い子から高い子まで“ばらつき”のある釣り鐘様の曲線(分布)になります。

 次に、この“ばらつき”を示す指標である標準偏差(=σ、シグマ)の値(単位はセンチ)を求めます(具体的な算出方法は省略)。そして、平均身長から1σセンチ高い身長をA’、同じく1σセンチ低い身長をAとすると、「身長」がAからA’の範囲の子供は全体の68.26%となります。同様にB(平均身長−2σ)からB’(平均身長+2σ)の範囲は95.44%です。このσを用いて、例えば「平均身長から標準偏差の2倍以上低い者」を“大幅に”平均より背が低い子の目安にします。

 つまり、正常と異常の“線引き”は、(平均身長−2σ)センチであり、Bより左側の部分が治療対象となる「低身長」群です。この子供たちは全体の2.28%にあたります。しかしながら、このような“線引き”では、Bの前後にいる子供たちの「身長」に大きな違いはありません。にもかかわらず、治療を行うための“線引き”はなされます(実際には、成長ホルモン投与には、他にもさまざまな基準があります)。つまり、この“線引き”とはとても相対的なもので、この値が変われば、治療を受ける、つまり異常な「低身長」の子供たちの数も変わるのです。

 「発達障害」の診断基準も、この「低身長」の問題に似ています。つまり「発達障害」のさまざまな症状は「身長」と同じように、正常から異常まで連続的かつ相対的なものが多く、正常と異常の境界がとても不明瞭です。さらに「身長」が中学校でグンと伸びる子供もいれば、高校に入って急激に成長する場合もあるように、そもそも子供の心の成長・発達は人それぞれです。このことも「発達障害」の診断を難しくしています。

(岐阜大学医学部付属病院教授)