泌尿器科医 三輪好生氏

 男女問わず、加齢に伴い増えてくる尿トラブルの原因の一つに過活動膀胱(ぼうこう)があります。過活動膀胱とは、こらえることが難しい急な尿意で頻尿や尿漏れを来す病気のことです。通常の尿意を我慢し過ぎたときに漏れそうになるのとは異なり、過活動膀胱では突然に強い尿意が出現します。この異常な尿意を尿意切迫感と呼びます。

 過活動膀胱の原因はさまざまです。脳卒中や脊椎の病気など神経の異常で起こる場合もありますが、多くは原因がはっきりしない特発性です。男性の場合は前立腺肥大症に多く合併することが知られています。女性は骨盤臓器脱に多く合併します。疫学調査によると40歳以上の日本人の12・4%が過活動膀胱であるといわれており、決して珍しい病気ではありません。

 過活動膀胱は分かりやすく表現すると膀胱が自分の言うことを聞かずに勝手に収縮してしまうような状態です。よって治療は膀胱を落ち着かせるための行動療法と、膀胱の異常な収縮を抑える薬物療法が中心となります。行動療法では水分の取り過ぎやカフェイン、アルコールを制限するなどの食事療法や膀胱訓練、骨盤底筋トレーニングを行います。

 過活動膀胱の治療薬はたくさんありますが、大きく抗コリン薬、β3作動薬という2種類に分かれます。それぞれの効き目や副作用によって使い分けたり、2種類を併用したりします。男性の場合は前立腺肥大症の治療と合わせて行わないと尿がうまく出せなくなる場合があるので注意が必要です。このような行動療法と薬物療法を組み合わせることで、多くの過活動膀胱の患者さんは症状を軽くすることができます。

 しかし一部の患者さんはあらゆる治療を受けても良くならない、いわゆる難治性の過活動膀胱の場合があります。これまでに難治性の過活動膀胱に対する治療としては、仙骨神経変調療法というものがありました。しかしこの治療法は神経を刺激するための電気刺激装置を体内に埋め込む手術が必要であり、MRI検査が受けられないなどの問題もあるため、一部の重症患者さんにしか行われてきませんでした。

 そんな中、昨年の12月から難治性過活動膀胱に対する新たな治療法としてボツリヌス療法が保険診療で認められました。ボツリヌス療法はボツリヌス菌が産生する毒素を内視鏡を使って膀胱の壁に注射するものです=図=。ボツリヌス毒素の作用で膀胱の神経から出るアセチルコリンという物質の分泌が減ることで膀胱の異常な収縮が抑えられ、過活動膀胱の症状が良くなると考えられています。

 ボツリヌス療法はこれまでにも手足の痙縮(けいしゅく)、顔面痙攣(けいれん)、斜頸(しゃけい)、腋下(えきか)多汗症など、さまざまな疾患に対し保険診療が認められて使用されてきました。過活動膀胱に対するボツリヌス療法は、泌尿器科の外来検査で通常使われている内視鏡で注射できるため、日帰りで治療を受けることも可能です。薬の効果は永久的ではなく4~8カ月で切れるとされています。薬が効き過ぎると膀胱の筋力が落ちて尿の出が悪くなることがあるので、もともと膀胱の力が弱い人や、前立腺肥大症などで尿の出が悪い人は注意が必要です。

 ボツリヌス療法は専門のトレーニングを受けた泌尿器科で治療を受けられます。過活動膀胱の治療中でもつらい症状が残っている方は一度相談してみるとよいでしょう。

(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)