「岐阜県には何もない」。そんな言葉を聞いたことがある人は少なくないはずだ。どこか諦めに似た空気をまとわせてつぶやかれる言葉。「岐阜県にはどうせ何もないから」

 本当だろうか?
 日本列島のほぼ中心に位置し、地面からは化石も出てくる。織田信長や明智光秀が活躍した胸躍る歴史のストーリーがある。清流には鮎が遊ぶ。水が森や田を潤し、コメや野菜、牛や豚を育む。新型コロナウイルスの感染が広がる前は、鵜飼や高山祭、白川郷に海外からも人が来た。夏は暑く冬は寒い。その分、春と秋の喜びを強く感じられる。
 岐阜県には本当に何もないのだろうか。

 岐阜新聞社は昨年秋、県民ら400人以上に次の三つの質問をした。「岐阜のタカラはなんでしょう」「その理由は」「100年後の岐阜県人へ伝えたいメッセージを教えてください」

 驚くほど多様な回答が寄せられた。多くの「岐阜のタカラ」は目の前に当たり前にあるので、気付かれなかっただけのようだ。

 もう、「岐阜県には何もない」なんて言う必要はない。ほら、こんなにタカラがあふれている。

 私たちはどんなことを大切にしているのだろう。岐阜のタカラはなんだろう。そんな疑問からこの企画が生まれた。岐阜新聞社の本社や支社、総支局の記者約50人が、取材先で出合った人たちに原則として直接聞き取る方式でアンケートを実施。昨年10月1日から11月14日までの1カ月半にわたって行った。県内在住、在勤を問わず444人(男性263人、女性181人)から回答を得た。(記事中の肩書、年齢は取材時)

 

豊かな自然

 「岐阜のタカラはなんでしょう」。444人の回答を「自然」「産業・観光」「歴史」「交通・地理」「人」「その他」のテーマ別に分類すると、「自然」が最も多かった。回答中のキーワードは「川」が最多。岐阜の豊かな自然を「タカラ」と考える人が多いことが明らかになった。

 豊かな恵みをもたらす木曽川=本社契約ヘリから
 雪を頂く白山=本社契約ヘリから

 岐阜市の女子高校生(17)は「登下校の時に毎日見て落ち着くから」と「長良川」を選択。本巣郡北方町の農業の男性(47)は「関西出身で、水道水が飲めるのは信じられない」と「水」を選んだ。「自然」に続いて「産業・観光」「歴史」が2、3番手に入った。


 「岐阜のタカラはなんでしょう」「その理由を教えて」の質問に対する、全444人分のコメントに出てくる単語を数えてみた。すると、「自然」を大切だと考える傾向がさらに明らかになった。コメントに一番多く登場した言葉は「川」(98回)、僅差の2位が「自然」(94回)だった。
 上位には「水」にまつわる言葉が多かった。上位10位までに「川」「長良川」「水」「鵜飼」「清流」「鮎」の六つが入った。水は岐阜を理解する上で重要なキーワードと言えそうだ。

 「100年後の岐阜県人へ伝えたいメッセージ」には、「今の自然を守って」「美しい川を保って」といった内容が目立った。

 大垣市の男性会社員(44)は「美しい水を保ち、暮らしてほしい」、瑞穂市の女子高校生(18)は「今のきれいな川が残っていてほしいな」とコメント。
 米国出身で岐阜市の高校教師の男性(32)は「100年後の人間より、100年前の人間に言いたい。もっと自然環境を大切にしてほしい、と。もちろん100年後の人間にも大切にしてほしい」と危機感を込めた。

長良川を眼下に見下ろす岐阜城。自然、歴史が融合する、岐阜を象徴するシーンだ=本社契約ヘリから
 

日本の「真ん中」

 大きな視点を感じられる回答が多かったのが「交通・地理」について。会社役員の男性(52)=岐阜市=は「日本の真ん中という立地」をタカラに挙げ、「全国各地から人々が交流するのに中心という立地は好都合」とした。日本地図を広げれば、確かに岐阜は日本列島の中心位置にある。世界から見たら岐阜は日本の真ん中だ。

 都市部にアクセスしやすく、ほどよく田舎。そんな立地の良さを挙げる人も多かった。銀行員の男性(35)=羽島郡岐南町=は「都心(名古屋、リニアができれば東京から40分)から近いのに、道が広いこと」。高校教師の女性(43)=同=は「日本一ちょうど良い」と表現した。

 春の高山祭=高山市内
 赤いマントをまとった黄金の織田信長像=岐阜市橋本町、JR岐阜駅前

 「海抜0~3千メートルの県土」を挙げる声も複数あった。団体職員の男性(65)=郡上市=は「変化と豊かさにあふれた地盤」と指摘。防災アドバイザーの女性(65)=大垣市=も「一つの県に海抜0~3千メートル級の山々がある。山も川もスケールが大きい」と答えた。変化の大きい地形は各地にそれぞれの文化や産業を創る。団体職員の男性(40)=関市=は「地域ごとの多様性」が岐阜のタカラだとした。

 一方、目の前にあるものの大切さを訴える声も。岐阜市の女児(2)の回答は「今、あっちで拾ったどんぐり」。タカラはすでに見えている。気付くか気付かないかだけだ、という意味が含まれている、のかもしれない。