平成の名水百選に選ばれた加賀野八幡神社の湧き水。岐阜県の水を求めて県外の人も訪れる=大垣市加賀野

 私たちが暮らす岐阜県。私たちが誇りに思う「岐阜のタカラ」って、なんだろう。岐阜新聞は昨年秋、アンケート調査を実施。県内外の444人に聞いたところ、多くのタカラが見つかった。それらを分析すると、なにやら“水”にまつわるストーリーが見えてきた。もしや岐阜県って水の県? だから清流の国? 2022年の「We Love Gifu」企画第1弾は、風が吹けば…ならぬ、水が流れれば岐阜県が栄える! 岐阜のタカラのストーリーを自然、産業、歴史、交通、人をテーマに全5回連載でお届けします。

 岐阜のタカラ、それは「水がおいしいこと」という。確かに「清流の国ぎふ」と呼ばれるほど、水は豊富だ。でも、無味無臭の水が“おいしい”って、どういうことだろう。

 大垣市加賀野の加賀野八幡神社。境内にある井戸から水がこんこんと湧き出ている。環境省の「平成の名水百選」に選ばれた水。連日、県内外からたくさんの人が水をくみに来る。地元の男性は「癖がなくておいしいよ。飲みやすい」と笑顔で話す。

 岐阜県の水は県外にも流通している。首都圏を中心に展開するJR東日本ホテルメッツ。日本ホテル(東京都)が運営する渋谷や横浜、浦和など23ホテルの客室で提供する天然水の採水地は「関市側島」。製造元のビクトリー(関市)は、長良川のほとりにボトリング工場を置く。地下からくみ上げた天然水で、水の硬度は27。60未満が「軟水」と呼ばれるため軟水中の軟水だ。

 井坂遼輔工場長は「抵抗感なく飲める。水質がとても良く加熱処理の必要がないので、ろ過するだけ。岐阜県の自然が生み出したタカラ」と胸を張る。

 さらに上流の美濃市では硬度8・5の天然水が売られている。一部に、例えば郡上市八幡町の水道水は硬度100の「中軟水」。この地に部分的に存在する石灰岩層の浸透水を使っているからで、こうした地域性も見られるが岐阜県の水は総じて軟水のよう。平野部でも大垣市の湧き水は硬度40前後だ。苦みがなく料理の味を壊さず、肌や髪にも優しいといわれる軟水。でも、なぜ岐阜県の水は軟水なのだろう。

西美濃地下、巨大な貯水庫

 実は、地質にヒントがある。水の硬度はカルシウムやマグネシウムといった地中のミネラルを、どのくらい含んでいるかで決まる。多く溶け込むほど硬水になる。県内の地質に詳しい富山大の安江健一准教授(地質学)=中津川市加子母出身=が解説する。

 「岐阜県の地質は一部の火山地域を除いて、大まかに濃飛流紋岩や花こう岩といった珪長(けいちょう)質岩と、海だった時代に放散虫が堆積してできたチャートなどからなる美濃帯で構成されている。珪長質岩もチャートも硬く、そして、もともとカルシウムやマグネシウムを多く含んでいない」

 ウェブで公開されている地球化学図を見てほしいというので開いてみる。地域ごとのカルシウムやマグネシウムといった元素の含有量が分かる地図で、確かに関東地方などと比べて岐阜県は低い値を示している。水に溶け込むミネラルが少ないのだ。これに加えて、山が険しく川の流れは速い。地中のミネラルがじっくりと溶け込む前に流れてしまうため、軟水になりやすいという。

 そして岐阜県を潤す豊富な水は、この地の地形が呼んだ。「太古からの地殻変動で飛騨地方は山に、美濃地方は東高西低の地形になった」と安江准教授。

 降った雨や雪は地中に染み込み、山から海へと川になって流れるが、木曽、長良、揖斐の三川は低地の西美濃に向かう。そこでは養老山地が西の壁となって水は西美濃に集中。三川が土砂を運び、氾濫を繰り返しながら砂れきなどからなる堆積層を形成し、西美濃の地下に深さ数百メートル以上に及ぶ“天然の貯水庫”を造り出した。

 さらに、この貯水庫には絶え間なく水が注ぎ込まれる。「岐阜県には高い山があり、湿った空気がぶつかって雨や雪になるため、長良川と揖斐川の上流は降水量が全国平均より多い。木曽川は流域面積が広く水量が多い」とは気象予報士の吉野純・岐阜大准教授。つまり、巨大な軟水工場-。それが岐阜県なのかもしれない。

 そして、その豊富な水は岐阜県の産業を育んだ。