所有者不明土地問題の解消へ  来年4月から法制度が変わる

 2011年の東日本大震災の後、問題が表層化した所有者不明土地問題。被災地では、建物が流され、土地の境界がわからなくなり、さらに、不動産の相続登記がなされていないことで土地の所有者が判明できず復興が遅れた。2017年民間有識者による研究会で、2040年の時点で、日本における所有者不明土地は約720万㌶、経済損失は17年からの累計で約6兆円に上ると発表。少子化を背景に土地の利用が減り、価値が低下、団塊世代の土地の未登記が急増すると予測した。

 所有者不明土地問題は防災面、土地活用の面で支障が生じる。今後、未来の土地がより暮らしやすいものになるように、来年4月から所有者が土地を国に帰属させることができる制度、さらに令和6年4月からは相続登記が義務化される。

 100年後の社会のために、大きく法律が整備される中、相続登記の呼びかけを続けてきた岐阜地方法務局長 太田孝治氏と所有者不明土地の調査を行ってきた岐阜県土地家屋調査士会会長 臼井理氏に話を聞いた。

 

INTERVIEW

岐阜地方法務局長 太田 孝治 

相続登記の義務化と相続土地国庫帰属法が未来のまちをつくる

ー所有者不明土地問題の問題点について教えてください

 災害時の復興や、都市開発の整備などで土地を使用する場合、所有者の同意が必要になりますが、所有者が誰か分からないことで、その妨げになることがあります。所有者不明土地の原因には、相続登記未了が挙げられます。昔は、先祖代々受け継いできた土地を引き継ぐことが家族間で無条件に行われてきました。それは相続登記を含めて義務であるとの意識が共有されていたからだと思います。しかし、近年の少子化や都市部への人口流出などを背景に、特に中山間地域や山林は土地の価値が下がり、この意識の低下からか、相続登記がされないケースが増えてきました。

ー来年以降に始まる、新たな制度とは

 これまで所有者不明土地問題の原因だった相続登記ですが、令和6年4月1日から義務化されます。相続が発生してから3年以内に、正当な理由なしに相続登記を怠れば10万円以下の過料が科せられます。明治時代から変わらなかった土地に対する制度が変わるので、所有者不明土地問題の解決に向けた大きな一歩です。また、法務局に相続人の一人であることを申告すれば登記義務を果たしたとみなし、手続きを簡略化する制度も同日から施行されます。

 さらに、相続登記が義務化される約1年前の令和5年4月27日からは、一定の条件を満たせば土地の所有権を放棄し、国に帰属させることができる「相続土地国庫帰属法」が施行されます。

ー相続登記義務の前に、土地を手放すことができるのですね

 ただし、一定の条件があります。その土地の上に建物や工作物、車両などがある土地や土壌汚染、埋設物があるとき、境界が明らかでない土地など、通常の管理や処分をするにあたり過大な費用や労力が必要となる土地は対象外となります。また、土地管理費の10年分の負担金を支払う必要があります。空き地ならおよそ20万円程度、通常管理されている土地なら80万程度になります。

ー費用が発生することで、相続と天秤にかけることになりそうです

 10年分の土地管理費を納めることは、モラルハザードを発生させないためにも大事な条件だと思います。相続をしたけれど必要ないと判断した土地を誰もが身勝手に放棄し始めると、道徳観や倫理を損ねる行為に繋がりかねません。土地を所有することは権利ですが、また管理する義務もあるのです。

来年から施行する「相続土地国庫帰属法」で国に帰属させるための条件を確認した上で、費用負担の額と照らし合わせ、結果として相続登記を選ぶ場合もあると思います。色んな検討をした上で、慎重に決めていただくことが重要だと思います。

ー「相続登記の義務化」、「相続土地国庫帰属法」によって期待できることは

 これらの法改正によって定められた新たな制度が適正に利用されることで、まずは所有者不明土地問題が解消されます。東日本大震災でも所有者不明土地によって復興が遅れることがありましたが、防災の面で住民の皆さんを守ることに繋がります。また、土地が円滑に活用されることで魅力的なまちづくりにも繋がります。「相続土地国庫帰属法」では、まず国から放棄された土地の自治体に、土地を利用するかを確認します。子育て世代が多い地域では公園などに活用する声が出るかもしれません。また、昨今のアウトドアブームによって、複数人が所有者になっている山林も活用できる道を見出せるかもしれません。

 また法制度が変わることによって、家族の間で相続のことを話す機会が増えることを期待しています。法務局では、昨年から地域の老人会の皆様に「終活」の一環で相続登記や遺言書の保管についてもお話する機会を設けさせていただいております。土地の相続登記、また新たに始まる「相続土地国庫帰属法」について法務局が窓口ですが、自筆の遺言書も当局で保管しております。資料だけでは分かりづらい法制度の話も、直接お伝えすることで理解が促されたと感じます。平成28年に比べ、令和3年は約2000人多い23116人の相続登記に繋がりました。

 来年から新しい法制度が始まり、住民の皆様から様々なご相談があると思います。土地に関する法制度のプロとして、知見や組織力を活かし、しっかりと対応していきたいと思います。

 

INTERVIEW

岐阜県土地家屋調査士会会長 臼井 理 

相談者の権利を守り土地問題を解決するサポートで地域社会に貢献する

ー所有者不明土地を調査してこられて、苦労されたことなど教えてください

 土地家屋調査士として関わる部分は「表題部所有者不明土地」の調査です。相続登記されてこなかった土地の中で、登記簿に記録されている情報が所有者の氏名のみ、または土地の名称や一部のみしかない土地のことです。明治22年からの土地台帳では公共性のある非課税の土地については氏名のみを記載していたため、150年後の今、表題部所有者不明土地の相続人を探し出すのは、相当な時間と労力がかかります。亡くなっている当時の所有者の氏名と住所の一部を頼りに、現地へ出向き、その町内の長や寺社で聞き込みをし、相続人の一人を探し出し、お会いして経緯を聴取します。山林などは手掛かりが非常に少ないため、根気よく探索し続けなければいけません。苦労は多いですが、それでも災害が起こった際、相続人に連絡が取れるだけでも対策に繋がると思うと、やるしかないと気持ちを奮い立たせてこれまでやってきました。

ー「相続土地国庫帰属法」ができると、これまでの苦労は解消されますか

 すぐに解消するとは思っていません。まだ相続人が判明していない土地は多く残っています。ただ、相続人が判明した後の土地活用がスムーズになると思います。

この制度がマスコミで報道されてから、「土地を国に戻したい」と相談に来られる方が多くなりました。中には申し出すれば簡単に相続した土地を国に帰属できると考えている方もおられます。新しい制度のため、やってみないとわからないことが多く、また国に帰属できない不承認要件のハードルも決して低くありません。今後、課題はたくさん出てくるのではないかと感じています。相続土地を手放し、国へ帰属できる新しい制度を利用しようとする方は「子どもたちに要らない土地を残したくない」「遺産相続で揉めることにならないように」とご自身の終活の一環で相談に来られます。新しい制度を使う場合でも、相続土地の測量調査は必要なので、土地家屋調査士がこの件に関わる部分は多くあります。土地家屋調査士としては、国の新しい制度を十分に理解した上で、相談に来られた方の権利を守り、悩みを解決できるよう尽力したいと考えています。また、調査士会としてもさまざまな地域での情報収集にあたり、新しい制度がより国民にとって使いやすい制度となるよう改正への提案を行う必要もあるのではないかと考えています。

ー令和6年4月から施行される相続登記の義務化についてはいかがですか

 相続登記の前身「登記法」は、明治19年の帝国議会において、国の法律第一号として制定されました。登記法の目的は第一に人民の権利の保護、第二に国の税収を目的としています。登記を義務づけなくても、土地に対する絶対的な対抗要件の効力があったため、所有者は権利を守るためにも登記を行ってきました。戦後の高度経済成長期には、価値のある土地は登記され、山林や原野など価値のない土地は相続登記されず、放置されて現在の所有者不明土地問題に至ります。令和6年から義務化されることで、所有者不明土地問題は解消されていくと思いますが、これまでの未登記不動産がまだ多く残っています。

ー岐阜県の所有者不明土地問題が解消された後、どのような改善が期待できますか

 岐阜県には豊かな山々に囲まれ、清流と呼ばれる美しい川が、平野部を脈々と流れています。戦後まもなく作られた地図と現在の地図を照らし合わせると、今より昔は川幅が広い大きな河川が多かったことがわかります。今は川がない場所でも、川や水にまつわる地名が残っています。私たちはその時代の地図から、そこに住む地域住民の暮らしや自然環境、災害への備えなどを受け継ぐことができます。今後、相続登記の義務化や相続土地国庫帰属制度によって所有者不明土地問題は解消へと向かいますが、せっかくなら岐阜県の自然豊かな美しい土地を未来へと繋いでいけるようなまちづくりや防災面でも安心して暮らせる土地活用ができることを期待したいですね。

 

想いつなげる講座 in ぎふ
~終活&相続手続のススメ~

主催:岐阜地方法務局
共催:岐阜公証人会、岐阜県司法書士会、岐阜県土地家屋調査士会

円滑な相続手続きのための、適切な備えを学びました。

 昨年10月「想いつなげる講座inぎふ」と題して、終活や相続登記の手続きについてわかりやすく県民に伝える講座がぎふメディアコスモスで開催された。岐阜市近郊の住民だけでなく、西濃、中濃、東濃、飛騨地域でも講座を受けやすくするため、大垣、土岐、郡上、中津川、高山にそれぞれオンライン会場を設け、YouTubeで講座内容を配信。当日は全体で約250名の地域住民らが参加した。