個別化ネオアンチゲンワクチンを投与されたがん患者の大規模なデータを詳しく解析
2026年6月9日13時配信
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)
2026年6月9日
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市、理事長:中村祐輔) 難病・免疫ゲノム研究プロジェクトの清谷一馬プロジェクトリーダー、趙鵬特任研究員(研究当時は同プロジェクト研修生)と公益財団法人がん研究会(東京都江東区、理事長:浅野敏雄)、福岡がん総合クリニック(福岡県福岡市、院長:森崎隆)の共同研究グループは、患者一人ひとりに合わせて作られた個別化ネオアンチゲンワクチンを投与されたがん患者の大規模なデータを詳しく解析し、実際に免疫細胞(T細胞)が免疫反応を起こしやすいネオアンチゲンの特徴を明らかにしました。
これまでの研究について
ネオアンチゲンは、がん細胞の遺伝子変異(遺伝子の傷)によって生じる、がん細胞だけに存在する目印(抗原)であり、免疫の力でがんを攻撃する治療(がん免疫療法)の標的として世界中で注目されています。本研究グループは、患者一人ひとりの遺伝子情報を解析し、その患者にあったネオアンチゲンを選び出し、そのネオアンチゲンを患者自身の樹状細胞という免疫の司令塔となる細胞に取り込ませて投与する個別化ネオアンチゲン樹状細胞ワクチンによるがん免疫療法を行ってきました。
今回の研究では、この治療を受けた352例のがん患者に投与された2,317種類のネオアンチゲンを詳しく解析し、実際に体の中で免疫反応を起こしやすいネオアンチゲンにどのような特徴があるのかを明らかにしました。
研究成果のポイント
● 投与された2,317種類のネオアンチゲンのうち、313個(13.5%)のネオアンチゲンにおいて、ワクチン投与した後のCD8+ T細胞による免疫反応が確認されました。
● 免疫反応を起こしたネオアンチゲンは、水になじみにくい性質を持ち、HLA分子に結合しやすく、細胞の表面に出やすい特徴があることがわかりました。
● こうした複数の特徴を組み合わせることで、実際に免疫反応を起こしやすいネオアンチゲンをより正確に予測できる可能性が示されました。
研究成果の意義
本研究は、個別化ネオアンチゲンワクチンを実際に投与された患者データを用いた解析としては、世界最大規模の研究の一つです。今後、一人ひとりの患者に合った個別化ネオアンチゲンワクチン療法の開発に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年6月9日(日本時間13時)に国際科学誌「Frontiers in Immunology」に発表されます。
ウェブサイト: https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2026.1829509/
用語解説
ネオアンチゲン:
がん細胞で起こる遺伝子変異(遺伝子の傷)により生じ、正常細胞には存在しない新たながん特異的な抗原です。T細胞ががん細胞を攻撃するとき、がん細胞の目印となります。
樹状細胞ワクチン:
患者自身の免疫細胞を使ってがんを治療する方法です。患者の血液から免疫の司令塔である樹状細胞を取り出し、ネオアンチゲンなどのがんの目印となる抗原を取り込ませて再び体内に戻すことで、体の中でがん細胞を認識する免疫細胞を増やし、がんを攻撃できるようにします。
CD8+ T細胞:
細胞表面にCD8分子を発現しているT細胞で、細胞傷害性T細胞またはキラーT細胞とも呼ばれます。がん細胞やウイルス感染細胞などを認識して攻撃し、破壊する細胞です。
HLA (ヒト白血球抗原):
細胞内で作られたタンパク質断片(ペプチド)を細胞の表面に提示し、T細胞に認識させる役割を持つ分子です。ネオアンチゲンがT細胞に認識されるためには、HLA分子に適切に結合し、細胞表面に提示される必要があります。
論文情報
論文タイトル:
Profiling immunogenic neoantigen peptides elicited by personalized neoantigen vaccine in cancer patients
著者:
趙 鵬1†, Clara Effenberger2†, 松本 早紀2†, 森崎 隆史3, 石井 佑1, 梅林 雅代3, 田中 裕人3, 古屋 雄大3, 中川 晋一郎3, 辻村 健太3, 中村 祐輔1,2, 森崎 隆3, 清谷 一馬1,2.
1 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 難病・免疫ゲノム研究センター 難病・免疫ゲノム研究プロジェクト
2 公益財団法人がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター 免疫ゲノム医療開発プロジェクト(研究当時)
3 福岡がん総合クリニック
† これらの著者は本研究に同等に貢献しました。
掲載雑誌:
Frontiers in Immunology
DOI: 10.3389/fimmu.2026.1829509
研究支援
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(18K19485、19H03522、23H02778)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(17ck0106364h0003)等の支援を受けて遂行されました。
医薬基盤・健康・栄養研究所について
2015年4月1日に医薬基盤研究所と国立健康・栄養研究所が統合し、設立されました。本研究所は、メディカルからヘルスサイエンスまでの幅広い研究を特⾧としており、我が国における科学技術の水準の向上を通じた国民経済の健全な発展その他の公益に資するため、研究開発の最大限の成果を確保することを目的とした国立研究開発法人として位置づけられています。
ウェブサイト: https://www.nibn.go.jp/
がん研究会について
がん研究会は1908年に日本初のがん専門機関として発足して以来、100年以上にわたり日本のがん研究・がん医療において主導的な役割を果たしてきました。基礎的ながん研究を推進する「がん研究所」や、新薬開発やがんゲノム医療研究を推進する「がん化学療法センター」「がんプレシジョン医療研究センター」、さらに新しい医療の創造をする「がん研有明病院」を擁し、一体となってがんの克服を目指しています。
ウェブサイト: https://www.jfcr.or.jp/
福岡がん総合クリニックについて
2008年10月に医療法人慈生会の免疫細胞療法専門クリニックとして開院し、難治性がんに対して免疫療法を中心に総合的な医療を行っています。2015年からは、再生医療等安全性確保法における第三種再生医療として種々の免疫細胞療法を提供しています。2018年からはネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法を導入しました。ネオオアンチゲンワクチン療法の医学的・免疫学的意義について深く研究し、その有効性を世界に向けて発信しています。
ウェブサイト:https://www.cancer-clinic.jp/










