台風被害に悲痛な声 停電や集落孤立、爪痕深刻

2018年09月06日 07:40

  • 孤立状態の伊往戸地区近くで県道をふさぐ、電線に引っ掛かった倒木=5日午後1時7分、山県市神崎 
  • 台風21号の強風で無残に枝が折れた国天然記念物の淡墨桜。地元では落胆と来年の開花を心配する声が広がっている=5日午後1時48分、本巣市根尾板所、淡墨公園 
  • 停電によって空調設備が使えなくなった療養病床。職員が氷の入ったビニール袋を入所者に押し当て、体を冷やした=5日午後0時4分、岐阜市安食、福富医院 

 台風21号の猛威から一夜明けた5日、岐阜県内では本巣市の国指定天然記念物「淡墨桜」の枝が折れる被害や、収穫期を迎えた栗やナシの農業被害など、台風が残した深刻な爪痕が明らかになった。市民生活への影響も大きく、停電からの復旧が遅れ医療機関や高齢者施設では対応に追われたほか、山県市の孤立集落では「早く電気を」と悲痛な声が聞かれた。

◇電話も不通

 台風21号の風雨による県道の倒木で、山県市神崎の伊往戸(いおど)地区が孤立状態になっている。5日も停電が続き、電話も不通のまま。住民は「電気だけでも早く通じて」と訴える。

 「家が揺れて、トタン屋根の一部が吹き飛んだ。伊勢湾台風以上の風だった」。神崎川沿いの山あいの同地区で、男性(78)は振り返った。

 風雨が強まる中、4日午後4時半ごろに停電し、慌ててろうそくを探した。情報源はラジオだけ。食料は3日分程度あるが、男性の妻(76)は「冷蔵庫が使えず傷んでしまう」と不安がる。

 市部に通じる県道神崎高富線は、7月の豪雨で一部が通行止めに。歩いて通る程度には復旧していたが、今回の台風で同地区手前の少なくとも5、6カ所で倒木や土砂が道をふさぎ、再び通行が困難になった。

 県岐阜土木事務所によると、倒木が電線や電話線に掛かっている箇所が複数あり、各事業者による処理が必要になるため、除去や道路復旧の見通しは「まだ分からない」という。

 同地区には5日現在、5世帯10人が住んでいる。長屋勝自治会長(87)は「発電機のガソリンが足りず、風呂も入れない状態。いま一番欲しいのは電気で、早く復旧してほしい」と話す。

 同市によると、近くの円原地区でも8世帯14人が孤立している。

◇診療所停電

 長時間にわたる停電によって、高齢者が入る医療機関や介護施設でも空調設備が使えなくなるなどの影響を及ぼした。

 高齢者が長期入院する療養病床などがある岐阜市安食の診療所「福富医院」では、4日午後から約27時間にわたり停電した。蓄電池式の自家発電機は5日早朝に残量が尽き、職員らは冷蔵が必要な免疫製剤などの注射薬を保冷バッグに移すなどの対応に追われた。

 60~80代の15人が入院。病室の窓を開け放すことで風を通し、氷枕を用意するなどして体調の悪化を防いだが、福富悌院長は「暑さがピークの時期だったらより深刻になっていたかもしれない。停電が長期化した場合の備えを見直したい」と話す。

 岐阜市大洞の特別養護老人ホーム「大洞岐協苑」では4日午後から5日早朝にかけて停電。ナースコールが使えなくなり、職員は巡回の頻度を増やし、自力で動ける利用者には代わりに鈴を渡した。

 発電機や投光器を用意し、照明を確保するなど事故防止に努めたが、長谷部博施設長は「電力がないと備えがあっても対応が難しいと痛感した。停電がさらに長引いていたらと思うとぞっとする」と表情をこわばらせた。

◇大木折れる

 本巣市根尾板所の淡墨桜は、地元住民が枝4本が折れているのを確認した。60年以上生育状態を記録し続ける藤原俊博さん(78)=同市根尾神所=は「これだけの被害は伊勢湾台風以来」と話し「花付きが良く、見事な花を咲かせてくれる枝だった」と声を詰まらせた。

 樹木医大平猛司さん(44)=同市屋井=は「現段階で来年以降の開花にどのような影響があるかは何とも言えない」としつつ「折れた箇所が腐らないよう早急に処置する必要がある」と指摘した。枝を支える支柱も倒れたり傾いたりしており、市と県は「専門家の意見を交え早急に対応したい」としている。

 揖斐郡揖斐川町谷汲岐礼では、高さ約35メートルの県指定天然記念物「伊野一本杉」が強風で折れた。同所の新宮神社のご神木で、樹齢千年以上。古くから住民の信仰の対象で地域のシンボルだった。地面から約7メートルの高さで折れた木は、近くを通っていた電線と電柱を巻き込んで倒れた。子どもの頃に一本杉を遊び場にした男性(79)は「すっかり殺風景になってしまった」と肩を落とした。

 歴史的な建物などの被害も。岐阜市司町では、1924年に建設された旧県岐阜総合庁舎の2階と3階の約1メートル四方の窓ガラス計4枚が割れた。県によると、塔屋の金属製の扉も外れ、屋上に吹き飛んでいたという。

◇秋の味覚大きな痛手 栗、ナシ落下

 猛威を振るった台風21号の強風で、県内では特産の栗やナシが落下し、秋の味覚が打撃を受けた。

 JAひがしみのによると、中津川、恵那市では相当数の栗園に影響が出たといい、木が倒れ、大量のいが栗が青いまま落ちた。中津川市栗振興会長の榊間信明さん(77)の栗園は約250本のうち幼木が数本倒れ、いが栗は3割が落ちた。「不作の年で例年の7割の収量を見込んでいたが、6割になるかもしれない」と肩を落とした。

 同市の観光栗園も約300本が被害を受けた。8日に今季の営業が始まるため、5日は約15人が復旧作業に当たった。恵那市のえな笠置山栗園も倒木や実が落ちる被害があった。今季の収量は5トンの予定だったが、1・5トンに落ちる見込み。

 県内有数のナシの産地・美濃加茂市山之上町では「豊水」が数多く落下した。山之上果樹農業協同組合の湯浅誠組合長(67)によると「6~7割落下した農家が多く、ひどい農家は9割。今季は雨が少なく、実が小さめで収量も少ない。台風とダブルパンチで品薄は避けられない」と嘆く。

 約7割が落下したナシ農園の経営者(41)は、落ちた実を拾いながら「防風ネットで対策したが、効果はなかった」と天を仰いだ。


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