豚コレラ撲滅計画を 生ワクチン開発、清水北大名誉教授に聞く

2018年12月30日 11:00

「イノシシの豚コレラを撲滅させる計画を検討すべき」と話す清水悠紀臣さん=28日、大津市

「イノシシの豚コレラを撲滅させる計画を検討すべき」と話す清水悠紀臣さん=28日、大津市

 家畜伝染病「豚(とん)コレラ」の生ワクチンを開発した研究者の1人で、かつて全国各地の養豚場で豚コレラの感染が発生した時代を知る北海道大名誉教授の清水悠紀臣(ゆきお)さん(88)=大津市=が岐阜新聞社のインタビューに応じた。今年9月に岐阜県で野生イノシシの感染が分かって以降、岐阜、愛知両県で感染が拡大している現状を懸念し「日本はイノシシの豚コレラの防疫経験がない。欧州に学び(イノシシの豚コレラの)撲滅計画を早期に検討すべきだ」と提言した。

 -国内で26年ぶりに発生した豚コレラの動向をどうみるか。

 終息への筋書きが読めておらず、このままでは手遅れになってしまう。養豚場では単発で発生しているだけ。イノシシの間で感染が広がり、農場の豚がウイルスを拾っているというシナリオを描いて、イノシシの対策を早く打つべきだ。まずは、イノシシにどうウイルスが入りイノシシから豚へどう入ったのか調べて原因をはっきりさせないといけない。

 -イノシシの感染は今後どうなるか。

 欧州の事例をみると、急速に感染が広がって収まる終息型と、持続型に分かれる。イノシシの生息密度が高く、ウイルスの毒力が弱いと持続型になる。今回は最初の発生から約4カ月が経過し、判断する時期にきている。持続型ならば撲滅には10年以上かかるかもしれない。

 -国内でイノシシに感染した事例は。

 1982年に茨城県の筑波山でイノシシが感染した事例がある。山でイノシシが大量に死んでいると、猟師が持ち込んだイノシシを私の研究室で調べて分かった。この時は筑波山麓の養豚場でも発生が続いていた。イノシシの感染は対策をすることもなく、この年で収まった。イノシシの生息密度が低く、ウイルスの毒力も強かったので、いま考えると終息型だった。

 -国がイノシシへのワクチン使用の議論を始めたが。

 ワクチンを固形にしてイノシシに与える方法はコスト高な上に労力が必要。何度も与えないと効果が出ない。感染頭数を減らす効果はある。イノシシ用ワクチンは国内にはないので輸入することになると思う。ただワクチン使用は手段の一つにすぎない。欧州では、持続型の感染を経験したドイツなどで使用成功例があり、イノシシ対策のガイドラインもある。日本はイノシシの豚コレラを撲滅させた経験がない。欧州に学び、撲滅計画を早期に検討すべきだ。

 -養豚業者から豚への生ワクチン使用を求める声も聞かれる。

 私が開発に携わった生ワクチンの歴史を説明すると、69年からワクチンの使用が始まった。発生時の緊急ワクチン接種でも効果を発揮し、感染は約1カ月で収まった。80年代に使用を怠った農家の中で発生が相次ぎ、使用が再び徹底される中で、92年に熊本県での発生を最後に無くなった。2004年に鹿児島県でワクチンウイルスの変異によると思われる発生があったのを契機に、ワクチン使用が診断だけでなく防疫の妨げとなるとの理解が高まり、07年に使用が中止となった。

 豚を守りたい心情はよく分かるが、現状のワクチンは(ウイルス侵入でできる抗体と、違う抗体を作ることができる)鑑別ワクチンではないので、使用は防疫の障害になる。農場の発生が相次ぐなど相当な事情がないと国も認めないだろう。まずは農場への経路遮断に力を注ぐべきだ。

 しみず・ゆきお 1930年北海道生まれ。北海道大農学部獣医学科卒。獣医学博士。農林水産省家畜衛生試験場(現農研機構動物衛生研究部門)で熊谷哲夫氏らと共に豚コレラの生ワクチンを開発。岐阜大農学部(現応用生物科学部)非常勤講師や北海道大獣医学部教授などを歴任し、昨年9月まで微生物化学研究所顧問を務めた。


カテゴリ: 社会