妖怪「岩魚坊主」 説話誕生の背景探る

2019年02月03日 09:11

自身が釣り上げたイワナのはく製を使い、イワナの生態を教えてくれた麦島昇さん=中津川市中津川、麦島さん宅

自身が釣り上げたイワナのはく製を使い、イワナの生態を教えてくれた麦島昇さん=中津川市中津川、麦島さん宅

 漫画家の故・水木しげるさんが描いた妖怪に「岩魚(いわな)坊主」がいる。僧侶に化けたイワナの妖怪で、中津川市の付知町、加子母、川上地区周辺が伝承地の一つ。民俗学の祖・柳田国男も著書で説話を取り上げた有名な妖怪だ。なぜ、イワナの妖怪が生まれたのか。市内の付知川などでアマゴ、イワナ釣りが解禁(3月1日)されるのを前に、説話誕生の背景に迫ってみた。

 岩魚坊主は、古くは江戸期の尾張藩士・三好想山が各地で聞いた奇談などを記した「想山著聞奇集(しょうざんちょもんきしゅう)」(1850年刊)に登場する。

 ある日、山仕事をする若者たちが、昼休みに山中の淵で毒もみ漁をして魚を捕ろうと提案。毒もみ漁とはサンショウの樹皮に石灰と木灰を混ぜて煎じ、丸めた「毒」を水底に沈めて魚を死なせる漁法だ。現在は禁止されている。

 準備を済ませた若者たちが昼食を取っていると、見知らぬ僧侶が現れ、毒もみ漁は魚を根絶やしにする非道な漁なのでやめるよう諭す。薄気味悪くなった若者たちは慎むことを伝え、僧侶にも昼食の団子やご飯を勧めて一緒に食べた。

 ところが僧侶が去ると、強気な若者数人が毒もみ漁を強行。すると6尺(約1・8メートル)もある巨大イワナが捕れた。喜んで村に持ち帰り、さばいてみるとイワナの腹から僧侶に与えた団子やご飯が出てきて恐れた-という話。

 柳田も論考「魚王行乞譚(ぎょおうぎょうこつたん)」で、魚が化けて出る説話の一例として取り上げている。イワナは「挙動の猛烈さ、ことに老魚の眼(め)の光のすごさを認められていた」とし、大きく成長したものは「深い淵の底に、一種の竜宮を構えているものと考えたのであろう」と、説話誕生につながる背景を推察した。

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 「イワナは下あごがサーベルのように伸びて牙が鋭く、迫力がある」と教えてくれたのは、中津川市中津川の渓流釣り歴40年以上という麦島昇さん(66)。

 麦島さんによると、イワナは産卵しても死なずに何年も生きるため、大きく成長しやすく80センチを超える大物もいる。食性は雑食で悪食。ネズミやヘビも食べ、共食いもする。驚くのが陸上を移動すること。「釣ったイワナを岩場に置いておいたら、にょろにょろとヒレで這(は)って逃げられたことがある」

 山奥の薄暗い淵や滝つぼなどで主のように潜むイワナもいる一方、小さな支流まで遡上(そじょう)するため、沢をせき止めて行う毒もみ漁にかかりやすい身近な魚でもあった。

 岩魚坊主について麦島さんは「イワナの生態を考えると、いろんな説話が出てくるのも不思議ではない。昔の人も毒もみ漁に対する罪悪感があったと思うので、僧侶に化けて諭す説話が生まれたのではないか」と話す。


カテゴリ: くらし・文化