無人集落に期間限定帰省 携帯圏外「落ち着く」

2019年11月13日 07:58

  • 仲越地区の集落で山岡一明さん(左)と疋田千代己さん=山県市神崎 
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 岐阜県山県市の最北部、市部に通じる県道200号の終着地にある同市神崎の仲越地区。住民のいない離村集落だが、生まれ育ったふるさとを守ろうと、出身者の山岡一明さん(65)=岐阜市=が春から秋まで1人で住み、疋田千代己さん(62)=本巣郡北方町=も週末ごとに集落を訪れ、神社や公民館などを手入れしている。2人は「ここは落ち着く」と口をそろえ、ふるさとがあることの豊かさを感じている。

 関市板取や本巣市根尾と山を隔てた小さな山里に、15軒ほどの木造住宅や公民館、神社が残る。屋根が落ちた家屋もある。主要な道は県道200号(神崎高富線)のみ。県道の仲越地区に続く約5キロ間には「落石注意」の標識が点在する。地区には電気や固定電話は通るが、携帯電話の電波は受信しない。

 山岡さんは、主に山県市で林業の仕事に携わっていることもあり、約15年前に単身赴任を選んで仲越地区の実家に移り住んだ。家屋は築60年以上で、水は湧き水を使う。「1人でも寂しくない。生まれ故郷は安心できる場所だから」と言う。集落の管理人の役目を担い、不法投棄にも目を光らせる。

 疋田さんは仲越自治会の会長だ。住民はいないが、自治会組織は今も残る。約15年前から週末になると、北方町から1時間20分ほど車を走らせ、実家の手入れに来ている。最近は公民館の屋根の塗り替え作業に精を出す。

 山岡さんは高校進学、疋田さんは中学進学を機に集落を出て、そのまま岐阜市内などで働いた。疋田さんは「若い頃はあまり寄りつかなかったが、年を取ると懐かしくなって自然と足を運ぶようになった」と語る。

 毎年ゴールデンウイークには出身者が集まってくる。今年は5月5日に約30人が集まり、神社に神職を迎え、春の例祭と戦没者の慰霊祭を営んだ。男性を中心に公民館で酒を酌み交わし、昔話に花を咲かせた。疋田さんは「みんなが帰ってきてにぎやかでよかった」と笑みを浮かべる。

 定住者がいないため、集落へ続く県道は2008年から冬季通行止め(12月中旬~4月上旬)となっており、山岡さんもあと1カ月ほどで来春まで集落を離れる。集落での暮らしを続けているが、「私たちの子どもはここで生まれていない。思い入れがあるのは私たちで最後。いずれ消滅してしまうのではないか」と寂しさを口にした。


カテゴリ: くらし・文化