唐辛子の呼び名 三つどもえ?

2020年05月31日 09:51

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  • 「あじめコショウ」を栽培し、普及を図る安保洋勝さん(右)と下畑士彦さん。アジメドジョウのような細長い形が特徴=中津川市下野、安保さん方農地 
  • 県内各地で作られている唐辛子を使った加工食品。唐辛子、コショウ、南蛮と商品名にも違いが見られる。 

中津川は「コショウ」/飛騨と郡上「南蛮」

 ピリ辛料理には欠かせない「唐辛子(とうがらし)」。岐阜県の名物グルメの味を引き立てる名脇役だが、その呼び名は県内各地でさまざま。国語辞典の通り唐辛子と呼ぶ人もいれば、「コショウ」や「南蛮(なんばん)」と呼ぶ人も。なんと、同じ岐阜県民でも通じ合わない。実は、複数の呼び名が使われている県は全国的にも珍しい。それって岐阜県が日本の中心に位置しているから? そんな多様性があるとは驚きだ。県土のピリ辛文化の一面をのぞいた。

 緑の実がなり、完熟すると真っ赤になる唐辛子。県内で作られている唐辛子の加工食品を取り寄せてみると、確かに地域ごとに商品名にも違いが見られる。

郷土料理

 「徳山唐辛子」は、ダム湖に沈んだ旧揖斐郡徳山村(現揖斐川町)で作付けされていた唐辛子で、現在は本巣市根尾地区に引き継がれて栽培されている。生産農家の羽田新作さん(84)は「根尾では、昔から唐辛子は唐辛子。徳山村では実のままだと唐辛子、唐辛子を加えた漬物は南蛮漬けと呼んでいた」と振り返る。「各務原キムチ」で知られる各務原市では、キムチ作りに唐辛子が欠かせないが、それは「赤唐辛子」と呼んでいる。

 県の飛騨・美濃伝統野菜でもある唐辛子「あじめコショウ」の栽培が盛んなのは中津川市。生産農家の安保洋勝さん(82)は「この辺りでは古くから唐辛子はカラゴショウ、ピーマンはアマゴショウ」。販売担当の下畑士彦さん(75)もうなずく。ではラーメンに振りかける一般的な"ペッパー"のコショウは-。「コショウはコショウ。特別な呼び方はないよ」と笑う。

 一方、唐辛子そのものを南蛮と呼ぶのは飛騨地域。南蛮と聞けば唐辛子を思い浮かべるという。鴨南蛮やチキン南蛮とは区別する。高山市奥飛騨温泉郷福地の居酒屋「多羅の木」には「焼きなんばん」という夏季限定メニューがある。唐辛子の完熟前の緑の実を焼き、かつお節としょうゆで食す一品料理だ。店主の中野靖好さん(61)は「観光で来たお客さんに"なんばん"の意味を聞かれる。昔から唐辛子なら何でも南蛮」と話す。高山には唐辛子にちなんだ「赤なんばん」という店名の焼き肉店もある。

 郡上も南蛮。唐辛子の葉と緑の実をしょうゆなどで煮た「南蛮煮」は郷土料理で、地元の主婦らが加工品を販売している。ただ、飛騨とは捉え方に違いがあるのか「緑の実が南蛮。完熟した赤い実は唐辛子」と話す生産者もいる。

共通語化

 歴史をひもとくと、唐辛子は中南米原産だ。日本には戦国時代ごろにポルトガル人が伝えたなど、諸説ある。「日本の方言地図」(中公新書)によると、日本には先に一般的なコショウが伝わっており、後から伝来した唐辛子は「南蛮コショウ」や「高麗コショウ」と呼ばれた。唐辛子の呼び名はそれよりも新しく、トウモロコシを南蛮と呼んでいた近畿地方などで混用を避けるため、唐辛子の名が広まり、それが江戸に伝わったことで共通語化したらしい。

 全国の唐辛子を扱う大阪市の専門店「鷹雅堂」の兼本浩史社長(60)は大まかに東北から北陸で南蛮、九州と岐阜、長野県辺りでコショウの呼び名が見られるといい、「三つの呼び名が使われている県は全国的にも珍しい。岐阜県は地理的に日本の中心にあるからでは」と推測する。同じように隣の長野県でも似た傾向がみられるようだ。

 食べると辛い唐辛子。いや、コショウ、南蛮。前出の安保さんは「辛いから笑顔になれる。人と人との接着剤」と評し、県内各地の生産者も「新型コロナウイルスが終息したら食べに来て」と話している。


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