空間にあふれる「記憶」 AAIC展が開幕

2020年06月03日 09:35

  • メディアアート「無秩序の中の秩序」を出品した笠原巧さん。「自らの技術を組み合わせ、面白いと思えたものが作品になった」と話す=岐阜市宇佐、県美術館 
  • 竹中美幸さんのインスタレーション「記憶の音」 
  • 新型コロナの影響で1カ月半遅れで開幕したAAIC展=岐阜市宇佐、県美術館 

 2日に岐阜市宇佐の県美術館などで開幕した「清流の国ぎふ芸術祭Art Award IN THE CUBE(AAIC)2020」。入選者たちが「記憶のゆくえ」をテーマに、幅と奥行き各4・8メートル、高さ3・6メートルのキューブ空間という制約の中で表現した。県関係では岐阜市の元神戸大院生、笠原巧さん(26)と大垣市出身の美術家竹中美幸さん(44)=東京都=の2人が選ばれた。

 笠原さんは「無秩序の中の秩序」と題したメディアアートを出品した。魚のエイの動きに連動させた9台の自動測定器が、壁材からくり抜いた木片の長さを定規で測り続ける。

 「記憶と聞いて普通はヒトの脳の記憶と考えるが、『場』の記憶と捉えた」と笠原さん。人類学者レヴィ=ストロースの言説をヒントに、「記憶」を、「場」が持つ無秩序の中から現れる「秩序」と見なした。

 エイは神話にも登場する古代からの生物で、平べったく、表と裏の2面性を持つことがモチーフに選ぶ決め手となった。水槽の中で無秩序に泳ぎ回るエイの四つの映像がエンドレスに流れ、映像ごとに表向きのエイを「1」、裏向きのエイを「0」と表示。四つの映像によって導き出された4桁の数字を十進法に置き換えるプログラムや数列が壁に投影される。

 エイの2面性と、コンピューターの2進法が同質となり、エイが象徴する神話的思考と、コンピューターの科学的思考が融合するさまを表現している。壁に映し出されたドット柄は、ランダムな値をモザイク画で表したものだが、エイの柄にも見え、細胞分化のイメージとも重なる。

 笠原さんは神戸大大学院では海事科学研究科を専攻し、船舶のエンジンや燃費について研究していた。芸術を専門に学んだことはなく、初めての芸術作品が入選となったことに驚きながら、「科学と芸術がボーダーレスになった現代で、工学的、科学的な視点を持つのが自らの強みかもしれない」と語る。

 竹中さんは「記憶の音」を出品した。時を告げる音を世界共通の記号である音符にして五線譜に起こし、映像用フィルムに焼き付けたものに、光と風を当てるインスタレーションだ。

 以前からフィルムに光を焼き付けた作品を発表しているが、楽譜を焼き付けるアイデアはAAIC向けに浮かんだという。制作に当たり最初に浮かんだ音の記憶は、高校時代まで過ごした岐阜で、近所の工場なのか、どこからともなく聞こえた時報のサイレンの音だった。それを起点に、東京での生活音、旅したイタリアやフランスの街の鐘の音などを録音し、雑音も含めて譜面に起こした。

 白黒の壁は映画スクリーンの比率と同じにした。フィルムから透過した光を上演するイメージといい、壁は淡い赤黄青緑のグラデーションに染まる。ポジフィルムに焼き付けた楽譜は量産できない一点物で、記憶の「一回性」を想起させる。不規則な風にあおられるフィルムは、記憶の揺らぎやざわめきを表現している。キューブ内に入れば人影も作品の一部となる。

 4月初めに会場設営は終えていたが、コロナ禍で開催延期になり「作品が公開されないのではと不安に駆られた」と竹中さん。開幕に安(あん)堵(ど)し、「鑑賞者が自由な視点で作品を楽しむ機会がいかに貴重かを痛感した」と話している。

◆「見て面白い展示目指した」 企画委員

 AAIC2020展の18点は応募総数710点から1次審査の書類選考によって選ばれた。入選者の経歴は、実績を積んだアーティストから公募展初出品者までと多岐にわたり、最年少は笠原巧さんで26歳、最高齢は74歳だった。

 応募者の年代は30代が全体の36.2%と最も多く、次に20代の24.2%、40代の18.2%と続く。地域別では1番が東京都で全体の20.7%を占め、2番目は京都府の10.8%、岐阜県は5番目で6.3%だった。海外は7.8%で、香港やオーストラリア、シンガポール、ドイツなどから55点が寄せられた。

 1次審査の講評では「さまざまな過去に対して、どれだけの新しみ方を提案できるか」(篠原資明氏)、「作品がこの箱から大きくはみ出し、ついには無化されるといった想像をかき立てるプラン」(高嶺格氏)、「実物で見て感じたい、と思った」(藤森照信氏)など、審査員7人が各自の審査の要点を述べている。

 AAIC企画委員の衣笠文彦委員は、「敷居が高くて意味が分からない展覧会ではなく、見て面白い、楽しい、きれい、何だろうと感じる、子どもが楽しい場所を目指した。芸術や科学といった境界にこだわらないボーダーレスな公募展になったのでは」と手応えを話していた。


カテゴリ: おでかけ くらし・文化