自由書房さらば 豊富な品ぞろえ、豪華なブックカバー

2020年06月20日 11:32

  • こだわりのデザインが施された自由書房のブックカバーと包装紙 
  • 長良橋通り沿いにあった、かつての自由書房本店=2008年9月、岐阜市神田町 
  • 岐阜について書かれた本を紹介していた「岐阜を知る本」コーナー=13日午後、岐阜市日ノ出町、自由書房EX高島屋店 

 岐阜県民に長く親しまれてきた老舗書店「自由書房」が、岐阜市内にある全3店舗を21日までに閉店する。岐阜の文化を育み、郷土の魅力を発信し続けた存在だっただけに、多くの市民が幕引きを惜しんでいる。

 自由書房は1948年に設立。昭和30年代に建てられた同市神田町の本店は「東海一」とうたわれた大型店だった。雑誌などの1階、参考書や漫画の2階、専門書の3階まで幅広い品ぞろえで、2003年に閉店した大衆書房(岐阜市)とともに、岐阜を代表する書店として知られた。

 各地に多店舗展開する中、岐阜高島屋(同市日ノ出町)に入るEX高島屋店は05年、柳ケ瀬にある文化の発信拠点として当時の県内最大規模の書店としてオープンした。08年に本店が閉店したのに伴い、旗艦店を引き継いだ。

 自由書房といえば、豪華なブックカバーで知られた。画家安野光雅さんの原画を1990年に店が買い取り、文庫・新書用と単行本用の2種類があった。単行本用のイラストは一見、中世欧州の雰囲気を漂わせるが、<長からむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ>(待賢門院堀河(たいけんもんいんのほりかわ))など恋を詠んだ和歌がローマ字でつづられている。全国でも話題になり、1993年には第10回書皮大賞を受賞。「額に入れて飾りたいから折らないで」という客もいたという。英字新聞がデザインされた深緑色の包装紙も、活字文化への愛情を感じさせた。

 近年は郷土への理解が深まる「岐阜を知る本」のコーナーを常設し、郷土の歴史や文化にまつわる著書の品ぞろえは豊富だった。書評コーナーには本紙など新聞3紙の書評欄で紹介された本を記事とともに陳列。過去には著者を講師にしたトークショーも定期的に開かれ、隣接したカフェでは、コーヒーを片手に買ったばかりの本を読んで、ゆっくりと過ごすことができた。

 コロナ禍で3カ月ぶりに来店し、閉店を知って驚いていた安八郡の50代の公務員女性は「本が大好きで、子どもの頃から本屋と言えば自由書房。選書に個性を感じ、ここへ来て本を選ぶことが楽しみだった。書店は文化発信の場所。一つの時代の終わりを感じる」と残念がった。

 県内の歴史や文化を扱った本を書いてきた地域史家の松尾一さん(73)=同市加納南広江町=は、文筆を始めてから自由書房とは30年以上の付き合い。自書は「岐阜を知る本」コーナーに並び、旧本店時代は出版した本にちなんだ企画展をギャラリーで開いたこともあった。

 閉店の一報を聞き「文化を発信してきた拠点が失われるのは非常に寂しい」と気を落とす。郷土の本から専門書、雑誌まで「ここにない本は、どこに行ってもない」と、その品ぞろえを高く評価。「インターネットがなかった時代は、岐阜の文化人、知識人という人が本を求めて集まった。自由書房に行けば誰かと会えるんじゃないかと毎日通う人もいた。サロンのように文化的な交流が生まれていた」と振り返る。

 その交流を支えていたのが高い専門性を持った書店員だった。松尾さんは「名物店員がいて常にアンテナを立てて情報を集め、新旧の出版物に詳しかった。本を書く時はアドバイスももらい、かわいがってもらった」と感謝した。

 県庁店とEX高島屋店は既に閉店し、鷺山店は21日まで営業する。


カテゴリ: くらし・文化