古今和歌集、解釈伝授は郡上に祖

2020年07月05日 08:38

  • 和歌文学館に展示されている長さ36メートルの古今和歌集絵巻のパネル。東常縁が宗祇に古今伝授をする場面で締めくくられている=郡上市大和町牧、古今伝授の里フィールドミュージアム 
  • 国の名勝に指定されている東氏館跡庭園=同  
  • 古今伝授の祖と呼ばれる東常縁の肖像(郡上市美並町の乗性寺所蔵) 

◆大和町ゆかりの武将 東常縁/「メモ方式」を編みだす

 平安時代に編さんされた日本で最初の勅撰和歌集「古今和歌集」。日本の古典文化の象徴の一つともいえる。歌の作法や解釈は秘伝とされ、師から弟子へと伝えられてきた。「古今伝授」と呼ばれるその伝達方法を確立し、古今伝授の祖と呼ばれるのは、武将・東常縁(とうのつねより)。京の都から離れた岐阜県郡上市大和町にゆかりのある人物だ。

 古今和歌集は、1100首20巻にわたり、解説なしではその内容を正確に理解することは困難だった。古今和歌集の読み方や解釈は秘伝とされ、師から弟子へ一対一で口伝として直接語られた。古今伝授を受けたことは大きな権威が伴ったという。

 大和町にある「古今伝授の里フィールドミュージアム」は、東常縁や古今伝授について詳しく紹介している。東氏は、千葉・下総出身で、中世に230年にわたり郡上を治め、武人でありながら歌人の家柄でもあった。鎌倉時代初期に将軍に歌人としても仕え、勅撰集にも多くの歌が選ばれた。後に郡上に移り住み、現在のフィールドミュージアムの向かいの山にあったとされる篠脇城を居城とした。歌人の血を引き継ぐ常縁は九代目に当たり、室町時代中期、15世紀の人物だ。

 常縁は「切紙(きりがみ)伝授と呼ばれる伝え方を編みだし、この形が江戸中期ごろまで朝廷内などでの伝授方法として残ったことなどから古今伝授の祖と呼ばれています」と、同ミュージアムの松原恵美さんは紹介する。切紙伝授とは、目立たない小さな切り紙に、重要事項の要点だけをメモ書きとして記す方法で、機密性を保ちながら伝えることが可能となった。常縁が連歌師飯尾宗祇へと伝授した際に初めて採用されたとされる。

 その後、宗祇から弟子によって伝えられ、古今伝授の本流として確立された。同ミュージアムによると「常縁から宗祇には複数回の古今伝授が行われ、うち1回は郡上で行われたという説もある」という。ちなみに、宗祇は同市八幡町の名水「宗祇水」の名の由来となった人物だ。

 郡上郡大和町(現・郡上市大和町)では、1979年に篠脇城跡の近くで東氏の館跡が発見された。ほぼ完全な形で姿を現した優雅な池泉庭園遺構は、87年には国名勝に指定。館跡庭園の発掘を機に、短歌や和歌に親しむ古今伝授ゆかりの地としてのまちづくりを進め、93年に同ミュージアムが開館した。

 庭園周辺には古今伝授にちなんで、古今和歌集や新古今和歌集に詠まれた植物が植えられ、今では四季折々の花を咲かせている。筧政則所長は「豊かな自然を感じながら、東氏の歴史や和歌文化に触れてほしい」と施設の魅力を語る。

 ミュージアム内の和歌文学館には、古今和歌集の代表的な和歌を並べた長さ36メートルの壮大な和歌絵巻のパネルが展示されている。「これを一通りたどれば、最も簡単な古今伝授を受けたことになります」と松原さん。万葉集の時代から現代まで約1300年間の文学史を伝える"現代の古今伝授"の拠点となっている。


カテゴリ: くらし・文化