【寄稿】日本ALS協会・恩田さん「余命宣告でない」

2020年07月26日 14:56

恩田聖敬さん

恩田聖敬さん

 京都府で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者の依頼を受け、医師2人が薬物を投与して殺害したとされる事件。日頃から「ALS患者も自分らしく幸せに生きられる」と発信し続けている日本ALS協会岐阜県支部長で、まんまる笑店社長の恩田聖敬(さとし)さん(42)=岐阜市=が、事件について本紙に寄稿した。死にたいと訴える女性患者に、生き生きと暮らす患者の姿を伝えられなかったことに無念さをにじませ、生きる選択肢を示さなかった医師への憤りとともに「ALSは余命宣告ではない」と強く訴えた。

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 ついに起きてしまった-。事件について聞いた時、最初に思ったことです。同時に(2016年の)やまゆり園事件を思い出しました。「障害者は社会のお荷物。死にたいと言っているのだから死なせてやればいい」という至極短絡的な発想が、実行した医師たちにはあったに違いありません。そうでなければ、仮にも医師が頼まれたとしても自ら人を手にかけることができるわけがありません。本来は人の命を救う役割の医師が、死にたいという患者に生きる選択肢を示せなかったことは極めて遺憾です。

 今回亡くなった患者さんのプロフィルを報道などで拝見するに、強い意思を持ってやりたいことをやって生きてきた印象を受けました。重度訪問介護の制度を使って24時間の介護体制を築き、会員制交流サイト(SNS)も使いこなしていたそうです。24時間の介護体制を築くのはたやすいことではありません。それを踏まえて考えると、この患者さんは交渉力とマネジメント力にたけた優秀な方と想像ができます。

 優秀であるが故に自分の理想と現実のギャップに耐えられなかったのかもしれません。でももしSNSで生き生きと暮らす先輩ALS患者との出会いがあったとしたら、結末は変わっていたかもしれません。

 現在、私は日本ALS協会岐阜県支部長を務めており、患者さんからメールなどでよく相談を受けます。SOSを発信さえしてもらえれば、私なりに救う手段を全力で答えます。かく言う私も何度もSOSを出して救ってもらったからです。本件の患者さんはSNSという発信手段を持っていました。SOSが誰にも届かなかったことが残念でなりません。

 あえてALSになって良かったことを考えると、障害者の世界を知れたことが一番に思いつきます。私の中の世の中が2倍にも3倍にも広がりました。障害者の生きる工夫、それを支える人たちの情熱、障害者の賢さ、当たり前のありがたみなど、健常者として生きていたら一生、接点がなかった出会いや気付きがありました。その経験をより多くの人に伝えていくことで、障害者も健常者もないフラットな社会づくりの一助になりたいと本気で思っています。知ることから全てが始まると思います。

 最後に誤解なきよう申し上げます。「ALSとは適切な介助者チームとテクノロジーの力を借りれば乗り越えられる病気です! 余命宣告では断じてありません!」。彼女にもこの事実を伝えたかったです...。無念です...。ご冥福をお祈りいたします。

 おんだ・さとし 1978年、山県市生まれ。京都大大学院工学研究科修了。アミューズメント会社を経て2014年、サッカー・FC岐阜を運営する岐阜フットボールクラブ社長に就任。その後、ALSを発症して15年に退任。16年、まんまる笑店を設立、社長に就いた。


カテゴリ: 社会