映画「君の名は。」巡礼者今も 「誰そ彼時」境内染まる

2020年10月03日 17:37

 岐阜県飛騨市の聖地巡礼の玄関口、JR飛騨古川駅。「君の名は。」公開から4年たった今も巡礼の客が降り立つ。宮城県から友人と初めて訪れた女性(37)は、RADWIMPSの劇中曲だけ聴こうと映画館に出向き、魅力にとりつかれた。「映画の世界に入ったようで、感慨深い」

 劇中の重要アイテム「組みひも」の制作体験ができる飛騨古川さくら物産館。愛知県豊川市の大学3年生の2人(21)は幼なじみ。公開時は高校生で、やっと巡礼できた。

 「のどかで住民の人柄も良く、癒やされる」と目を輝かせる2人。哲学を専攻する学生は「寄り集まって形を作り、ねじれて絡まって時には戻って途切れまたつながり。それがムスビ」というせりふに鳥肌が立ったと語る。もう1人の学生は「カザフスタン出身の友人も知っていた。絵と音楽だけでも楽しめたみたい」。

 店員の女性(64)は「みんな映画に強い思いを持っていて、とにかく熱量がすごい」と感心する。店に置いた聖地巡礼メッセージノートは11冊を数え、字がびっしり。

 「『アニメファン』から『飛騨市ファン』になる人が多い」と話すのは、市観光課の女性(41)。

 聖地の一つ、飛騨古川駅から車で20分の場所にある落合バス停に止まるバスは1時間に1本足らず。帰りの足が無くなり困っていた巡礼客を、地元住民たちが自家用車で拾って駅まで送り届けた。「住民が自然な親切心で、自らおもてなしをしたことが聖地として成功した理由では」と分析する。

 市内の代表的な祭り「古川祭」では、客をごちそうでもてなす「呼び引き」の風習がある。友達が友達を誘って別の友達の家に遊びに行く、そんな、あらゆる人を迎え入れるのが当たり前な地域性が、巡礼客を安心させる。

 市へのふるさと納税が、コロナ禍にもかかわらず前年より伸びているという。一過性でなくリピーター、ファンになってくれる人々の存在。「心の片隅で飛騨市を思ってもらえている」と横山さんは目を細める。

 好きが高じて県外から移住し、飛騨市職員になった税務課の男性(19)。滋賀県米原市のサッカー少年だった中3の頃、映画館で「君の名は。」を鑑賞。高校進学後に飛騨市を訪れ、豊かな自然を目の当たりにし「働くならここ」と決めた。

 移り住んでから、劇中でも重要な役割を持つ防災無線が頻繁に流れるのを聞いて、人のつながりを感じた。ふと、「君の名は。」を見ていなかったら何をしていたのだろう、と考える。「仕事にもやりがいを感じている。大好きな飛騨市に来られて、幸せ」とはにかんだ。

 夕方、気多若宮神社の境内に立つと「誰(た)そ彼(かれ)時」(劇中でカタワレ時とも)の空が広がっていた。きょう10月4日は糸守町に彗星が最接近した運命の日。今頃、世界中で、飛騨市の風景が思い出されているはず。市観光課の女性は言う。「好きなものが存在すれば、そこが聖地」

【作品紹介】

 千年に1度の彗星(すいせい)来訪が1カ月後に迫る日本。山深い糸守町に住む女子高生の三葉(みつは)はある日、自分が東京に暮らす少年になった夢を見る。一方、東京在住の男子高校生・瀧(たき)も自分が田舎町で生活する少女になった夢を見る。奇妙な夢を通じて彼らは引かれ合っていくが...。2016年公開、日本映画の世界歴代興行収入1位となった新海誠監督の大ヒットアニメ。


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