ハツシモは幻の米? 岐阜県産、学校給食にも提供

2020年10月18日 08:07

 今年も新米が出回り始めた。県内、特に美濃地方で広く生産されている米が、品種登録から70年を迎えた「ハツシモ」。同じ品種がこれほど長く栽培され続けるのは珍しい。県内の2019年産の作付面積のうち、ハツシモはコシヒカリなどを抑え37%を占めるが、県外ではほとんど生産されないため「幻の米」とも呼ばれる。学校給食で提供されるなど多くの県民に日々食されている身近な存在。生産者は格別な思いを込め、このご当地米を守っている。

 ハツシモは大きめな粒が特徴。あっさり味で粘りは少なめ、すし米に適するほか、どんな料理にも合う。その歴史は1935年、当時の農林省試験場で東山24号と近畿15号を交配したのが始まり。県の試験場で系統育成した後、50年に品種登録、県の奨励品種となった。当時、11月中旬の初霜が降りる頃まで栽培されたことがその名の由来で、晩生種。ちなみにコシヒカリは56年誕生、ハツシモの方が先輩だ。

 といってもこのハツシモは、今食べられているハツシモの前身。イネ縞葉枯病(しまはがれびょう)に強くするために96年、従来のハツシモと病気に強い系統を交配、2009年にハツシモ岐阜SLとして県奨励品種となり、翌年一斉に切り替わった。

 岐阜SL開発に当たっては、慣れ親しんだ従来の味が受け継がれるよう「戻し交雑」という方法で育成。ハツシモは、その味はほぼ変わらぬまま体が強くなり、引き続き県民に選ばれ食卓を支える存在となっている。

 岐阜市内の田んぼでも今月、ハツシモの稲刈りが行われた。農業法人「アグリファーム上城」は同市内の24ヘクタールで栽培し、うち6割をハツシモが占める。渡辺益男社長(72)によると、全てハツシモの頃もあったが、栽培時期をずらして作業効率を高めるため、新品種「にじのきらめき」など多収米の栽培にも着手した。それでもハツシモへの思い入れは強い。「多収米は確かに品質管理しやすくたくさん収穫できる。ハツシモは天候に左右されやすく栽培が難しいが、手のかかるかわいい子どものよう。灯を絶やしたくない」

 県内の多くの子どもはハツシモを食べて育っている。学校給食では岐阜、西濃地区の児童生徒と教職員、約9万7千人分をカバーし、供給量では県内の約6割を占める。羽島郡岐南町にある岐阜地区学校給食米飯協同組合では、5市2町の公立小中学校の給食に出される米飯を製造し、そのうち関、美濃市を除く3市2町向けはハツシモだ。

 倉庫に積み上げられたハツシモの30キロ袋。ここでは1日約100袋以上を炊き上げる。「子どもたちにおいしいご飯を炊くことが使命」と話す事務局長兼工場長の梅田孝教さん(59)にとって、ハツシモは「炊きやすい米」。デンプンが多くお焦げができやすいコシヒカリと比較して、ガスでしっかり炊いてもお焦げが少ないという。甘みや香り、食感が良く地産地消にもマッチし「こんな良質な米が学校給食に使われるとは」と他県から賞賛の声が上がるほど。

 栽培する渡辺さんにとっては、「幻」と呼ばれることには複雑な気持ちもある。県内全域で栽培されているわけではなく、全国に販売するには収穫量が足りない。魚沼産コシヒカリのようにブランド化できればと今後を見据えながら、「まずは県内の皆さんにたくさん食べてほしい」とアピールする。JAぎふ営農部米穀課の林秀治さん(42)も「これほど長期にわたり同じ品種を栽培し続けているのはまれ。今後も県の主力品種として守り続ける」と話している。


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