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窮地救ったマスク販売 アパレル業者、品薄騒ぎで中国製輸入



マスクが品薄だった時期を振り返った田中勝社長。異業種参入で本業の減収分をカバーしたという=岐阜市長住町、田中繊維
マスクが品薄だった時期を振り返った田中勝社長。異業種参入で本業の減収分をカバーしたという=岐阜市長住町、田中繊維

 マスクが欠かせない生活になって1年。国内で新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた昨年春はマスクが品薄状態に。我先にと開店前のドラッグストアに行列ができた。ある種の投機的な様相を見せたマスク販売だが、実は岐阜のアパレル産業も異業種参入していた。1年を経て「マスク争奪戦」の舞台裏を岐阜市のアパレルメーカー社長が振り返った。 

 岐阜市長住町のアパレルメーカー「田中繊維」。岐阜のアパレル産業の中では早くからマスク販売に参入し、自治体への寄付などを通して話題も呼んだ。本業は、主に婦人服の企画・製造・販売。中国に自社工場を構え、コロナ禍前は中国人業者も岐阜の自社ビルを出入りしていた。

 国内で初めて新型コロナの感染者が確認されたのは昨年1月15日。同30日には中国での感染拡大を受け、世界保健機関(WHO)が緊急事態を宣言。同社の田中勝社長(47)は、前日の29日から自社ビルに消毒液を置いた。中国の取引先などから情報が入り「春節で日本に大勢の中国人観光客が来ている。すさまじいことになる」と予感した。

 次第に報道が新型コロナ一色になると、店頭からマスクが消えた。同社では社員の分を取り寄せようと中国のつてを頼ったのをきっかけに、マスク販売への参入を検討。だが「扱ったことがない商品。どこで売るのかと社内で反対の声もあった」と田中社長。

 結果的に3月下旬に発注し、第1便は4月上旬に入荷。5月の大型連休明けまでに中国のアパレル会社経由で、現地のマスク工場から計2500万枚の不織布マスクを輸入。仕入れ値は上下し、1枚25円の時だった。争奪戦になるも「中国人とのビジネスは現金で前払い。前金のおかげで確保できた」と話す。マスク製造を突貫で始める業者もあったが、そうしたマスクには手を付けなかった。

 外出自粛要請で店舗が閉まると、アパレルの売り上げが急減したが、マスクは飛ぶように売れた。自社販売だけでなく、休業補償の対象外だった洋品店にも卸した。県などの自治体にも計60万枚を寄付。4、5月は注文が殺到し、睡眠時間を削って対応した。

 8月にも50万枚を輸入したが、供給が落ち着くと本業に戻った。岐阜のアパレル産業は年配者向けの婦人服を扱う会社が多く、同社も例外ではない。年配者は外出に慎重で購買意欲の回復が鈍く、もとよりネット通販は伸びにくい。本業はこの1年「経営意欲をそがれるぐらいの状況」で、生産量を減らして対応。減収分をマスク販売でカバーして黒字を保った。

 「なんとか乗り越えられた」と田中社長。父の代からアパレル一筋をたたき込まれたが、この先、前の水準まで売り上げが戻るか分からない。そうした中、短期的ながら異業種参入したマスク販売で気付かされることもあった。「売れるものを扱う。この基本を再認識できた。今後は複眼的な視点で経営していかないといけない」と話す。

カテゴリ: 新型コロナウイルス 経済