レゴブロックで独自の消防署を制作した消防クリエイターの伊藤龍一さん。障害者の視点でアドバイスし、防災福祉の充実に役立ちたいと話す=各務原市上戸町、伊藤さんの実家

 レゴブロックで消防車や救急車を組み立てるのが得意です-。岐阜新聞「あなた発!トクダネ取材班」に「消防クリエイター」を名乗る男性からメッセージが届いた。写真を見ると、車両だけでなく消防署の建物まで作っている!男性に会いに行くと、体が不自由で憧れの消防士にはなれなかったが、障害のある自らの経験を防災福祉の充実に役立てようとする、熱い"消防愛"の持ち主だった。

 男性は、岐阜市のグループホームに住む伊藤龍一さん(48)。脳性小児まひで生まれつき体が不自由だ。話すのは苦手だが、最近はスマートフォンの文章読み上げアプリでコミュニケーションをとる。

 伊藤さんが一番好きな消防署は、各務原市消防本部の西部方面消防署といい、玩具のレゴブロックで消防署の"仮想分署"も作った。「職員は19人体制。勤務形態も考えた」と想像を膨らませる一方、配備する救急車やポンプ車、タンク車、緊急査察車、可搬ポンプ積載車は、車内まで細かく再現。ポンプ車にはホースカー、救急車にはストレッチャーを収納するこだわりようで、2年かけて完成させた。

 幼い頃から将来の夢は消防士だった。すぐ出動できるよう早起きの特訓も重ねたほど。だが、つらい出来事が伊藤さんを襲う。12歳の時、火遊びをしていて自宅を全焼させてしまったのだ。一時は消防を遠ざけ、遠くから消防署を眺めるだけの日々が続いたが、友人が「経験を生かせばいい」と背中を押してくれた。

◆救命技能取得「福祉充実が宿命」

 体が不自由で消防士にはなれなかったが、できることを考えた。それが消防クリエイターの活動だ。2次障害の手術やリハビリと並行して独学で勉強を重ね、昨年、甲種防火管理者の資格を取り、普通救命技能と上級救命技能の認定証も受けた。今も図書館に通って勉強を続ける日々だ。

 目標は「日本の防災福祉の充実に貢献すること」。例えば、災害時の避難所に箸ではなくスプーンやフォーク、ストローを備えるだけで、健常者と障害者が共存しやすくなると考える。防災講習などで障害者から見た改善点をアドバイスする存在になりたい。それが伊藤さんの夢だ。

 「災害弱者でも安心して暮らせる防災大国になるよう、障害者の視点で考えたアイデアを提供したい」と伊藤さん。「これを果たすために障害を持って生まれてきたのかもしれない。生まれる前から消防好きだった、私の宿命です」と笑顔を見せる。