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新刊レビュー/2017年12月01日 12:32
『あいまい生活』深沢潮著 「あいまい」どころか痛すぎる現実
 

 京王井の頭線の明大前駅から徒歩18分。渋谷や新宿、吉祥寺へのアクセスが便利な街に佇む、女性専用のシェアハウスが物語の舞台だ。ニューヨークへの語学留学から帰国したばかりの女子や、下北沢で演劇活動に勤しむ女子が、共有スペースであるリビングルームで、そのきらめく青春を交錯させる……

 ……わけでは、まったくない。

 描かれるのは、現代女性を取り巻く、あらゆる貧困のバリエーションだ。ある者は、危機に陥っても、実家に頼ることができず。ある者は、母国への強制送還を恐れて。ある者は夫のDVから逃れたものの、愛する息子と離れて暮らさざるを得ず、ある者は「生活保護」の4文字に伴う差別や哀しみにもがきながら生きている。

 ここで描かれるのは、暴力のバリエーションでもある。男たちによるものだけではない。女同士であっても、差別や暴力は普通に行われる。彼女たちは常に過敏である。相手の言葉や振る舞いに潜む、自分への嘲笑に。被害妄想かもしれない。思い込みかもしれない。けれどその正体が実際に何であるかは、彼女たちにとってはどうでもいいのだ。彼女たちは傷ついている。あるいは、自分で自分を傷つけている。嫉妬だってする。すれ違いざま、あからさまにため息をつく。ある者のiPhoneがシェアハウス内で紛失する。けれどみんな、気にも留めない(ふりをしている)。

 そして胸に迫るのは、これらの貧困のどれをとっても、他人事ではまるでないということだ。例えば明日、信じ切っていた恋人の言葉が、すべて嘘だったと判明したら。明日、夫が何らかの絶望の淵に立ち、酒を食らっては暴れだしたら。朝、いつも普通に通っていた会社へ、行こうとしたら震えが止まらず、脂汗がしたたり落ちたら。起こり得る。どんな人にも起こり得る。もしそれらを避けて無難に生き抜きたいなら、誰のことも信じず、何も預けず、ただただひとりで、粛々と日々を送るのみだ。誰とも交わらず、誰の力も借りずに、自分ひとりきりで生きていける方法を探すのみだ。

 ……ないんである。そんな方法、どこにも。

 親という他人から生まれ落ちちゃった以上、誰とも何の関わりもなく生きていくことは不可能だ。であれば、どうしたものか。「何が起きるかわからない人生」とうまく折り合いをつけながら、とりあえず今日を、生き延びるのみだ。正解でも不正解でもなく、白でも黒でもない、あいまいな日々を。

(徳間書店 1600円+税)=小川志津子