オグリの里
国枝調教師、史上初の2頭目「牝馬3冠」

2018年10月19日 17:37

アーモンドアイで牝馬3冠を達成し、来年の凱旋門賞挑戦にも意欲を見せる国枝栄調教師(左)とクリストフ・ルメール騎手

 岐阜育ちで「子どもの頃は、田んぼの中を駆け回ってましたよ」と笑顔がはじけたのは、日本競馬界を代表する名伯楽の国枝栄調教師。管理する3歳牝馬アーモンドアイが、京都競馬場の内回り芝コースを走る「秋華賞」で、史上5頭目となる「牝馬3冠」をあっさりと達成。名馬を育て上げ、黄金色に輝いた秋の実りをバッサリと刈り取ったかのようだった。

 国枝調教師にとっては、2010年のアパパネ以来2頭目となる「牝馬3冠」の獲得で、JRA史上初の偉業を成し遂げた。最後の直線の爆発力で末恐ろしさを漂わせる女傑は、どこまで成長するのか。今後順調なら初の古馬相手となる「ジャパンカップ」(11月25日・東京)に参戦。来年にはフランス・凱旋門賞など世界の大舞台への挑戦も視野に入れて、さらなる頂きを目指す構えだ。

ゴール前、逃げ込みを図るミッキーチャームを差し切って秋華賞を制覇。牝馬3冠馬となったアーモンドアイ

 国枝調教師は、岐阜県(本巣郡北方町)出身の63歳。かつては田園地帯で、近所の農家には笠松競馬場に行くような馬もいたそうだ。競馬の世界に入ったきっかけは「一ファンから」だった。中学生の頃から、テレビで競馬中継を見ていて、名物アナウンサーの杉本清さんが盛り上げていたという。ヒカルイマイというすごい追い込み馬が好きで、皐月賞を勝ち、日本ダービーで頂点に立った。競馬に興味があり、獣医を志して本巣高校から東京農工大学へ進学し、乗馬に励んで馬術競技にも出た。大学卒業の頃、ちょうど美浦にトレーニングセンターができ、山崎彰義厩舎の調教助手となり、1989年に調教師免許を取得した。

アパパネに続く2頭目の牝馬3冠をアーモンドアイで成し遂げ、笑顔の国枝調教師

 転機になったのはブラックホークとの出会い。98年に初めて重賞を勝ち、99年のスプリンターズSでGIを初制覇。ディープインパクトの馬主でもある金子真人さんとの相性が良く、GI・14勝のうちブラックホーク、ピンクカメオ、アパパネの3頭で8勝も挙げた。有馬記念勝ちのマツリダゴッホも思い出深い1頭だそうで、蛯名正義騎手の好騎乗が光った。そして平成最後の秋、還暦を過ぎた名トレーナーは「史上最強牝馬」との呼び声も高まりつつあるアーモンドアイを育て上げた。

アーモンドアイとのウインニングラン後も喜びを爆発させるルメール騎手

 最後の短い直線だけで大外からの豪脚Vを決め、ウイニングランから戻ってきたアーモンドアイ。出迎えた国枝調教師はクリストフ・ルメール騎手と抱き合って3冠の歓喜に浸った。桜花賞を勝った時点では、国枝調教師にとっては悲願でもある「日本ダービー制覇」の夢もちらついたことだろうが、生産牧場(ノーザンファーム)とオーナーサイド(一口馬主クラブ「シルクレーシング」)は、牝馬3冠クラシックロードの王道を選択。同世代牝馬には敵なしで、オークス、秋華賞は「勝って当然」と見られていた。それでも国枝調教師は3冠が懸かったこの日、「緊張を表に出さないようにしていた」という。レース直後の会見を振り返った。


 ―アーモンドアイ牝馬3冠達成のレースを終えて。
 国枝調教師 ホッとしています。あれだけ能力があり、仕上がりのいい馬で、夏の暑い時期は加減して休ませたが、レースはぶっつけ本番でも大丈夫だった。出来は八分か、もうちょっとぐらいでした。

大仕事を終えてホッと一息。ルメール騎手は国枝調教師と抱き合って満面の笑み

 ―3冠の先輩・アパパネと比べてどうか。
 国枝調教師 オーナーからいい馬を預けてもらい、期待に応えられてうれしい。アパパネは、仕上がりに苦労したこともあったが、アーモンドアイは馬のレベルが上で、今回は気が楽だった。私がバタバタしてもしょうがないので、みんなの力を信頼していた。

 ―馬体重は480キロで、プラス14キロだったが。
 国枝調教師 牧場から戻ってきて、もう少し絞れるかと思ったが、全てにおいて問題なかった。気持ちも調教もできていて、ちょうどいいかなあと。

 ―レース展開について。
 国枝調教師 ルメール騎手に全て「お任せ」でした。あの位置取りで大丈夫だと思ったが、4コーナーでは前の馬が進んでいかないので、大外に出す形になった。力にまだ余裕があり、これからもまだいい夢を見させてくれるかなあと。歴代の名馬に続く馬になりそうです。

3冠牝馬アーモンドアイと国枝調教師(中央)ら関係者

 ルメール騎手 もう十分に強いです。牝馬3冠になってくれて「特別な馬」です。反応がすごく、速くて力強い。もっと強くなったら、(海外でも)どこのレースでもいける。「飛びます」ですね。3、4コーナーで外に出てすぐ加速した。最後の直線は真っすぐな走りで、瞬発力が抜群だった。3冠レースは1600、2400、 2000メートルと違うタイプの距離と馬場(阪神、東京、京都)でしたが、いずれも能力を発揮した。

 ―次のステップは。
 国枝調教師 レース直後は、熱中症なのか少しフラフラしていた。その後、歩様も大丈夫になり、ゆっくり疲れを癒やしていきたい。今後は古馬との戦いになり、ジャパンカップも選択肢の一つ。世界へもチャレンジしていきたいし、その資格のある馬です。ファンの皆さんも、われわれも夢を追っていて、今までにないところに踏み込んでいきたい。来年は、凱旋門賞なども候補に挙がってくる。

 ルメール騎手 彼女のレベルは高く、世界にいけると思う。来年の凱旋門賞がメインターゲットだったら、楽しみです。(騎乗については)僕は何も決まってないですが(笑い)。今朝はプリンセスだったが、レースを終えて、女王になった。

 ―ウオッカと比べてどうか
 ルメール騎手 GⅠを7勝した馬で、アーモンドアイはまだ3勝ですが、ウオッカのレベルまで多分いけるね。加速力、瞬発力、スタミナ、スピードの全てを備えていて、能力はウオッカと同じぐらい。


 これまでの3冠牝馬4頭が参戦したトライアルのローズSを使わず、オークスからの直行で、勝つべくして勝った秋華賞。アパパネは5歳まで走ってGⅠを5勝したが、3歳アーモンドアイの挑戦はまだ道半ば。今後もゆったりとしたローテーションで、GⅠ限定での挑戦が続くのでは...。レース後の飼い葉の食いも良く、元気に美浦トレセンへ帰厩。脚元は問題なく、いつもと変わらない状態だという。

3冠牝馬誕生のセレモニーで喜びの関係者

 ルメール騎手は「今まで日本で乗ったなかで、一番強い馬だと思う。ファンタスティックホース」と絶賛していたが、次走に予定しているジャパンカップでも圧倒的パフォーマンスで勝てば、世界との距離はぐっと縮まる。日本競馬界の悲願でもあり、ディープインパクトやオルフェーヴルでもあと一歩届かなかった「凱旋門賞V」。英ブックメーカー大手は、来年の凱旋門賞のベット対象に日本のアーモンドアイを追加。既に長期前売りが開始され、今年同レースを連覇した1番人気のエネイブル(牝4歳、英国)らに続き、上位人気を集めているようだ。

 フランス出身のルメール騎手。凱旋門賞では一昨年のマカヒキで14着、昨年のサトノダイヤモンドでは15着に終わった。これまで10度挑戦し、06年にプライド(フランス)での2着が最高で、「母国での凱旋門賞は最も勝ちたいレース」という。今後はアーモンドアイと国枝調教師、ルメール騎手の最強トリオで世界最高峰の頂きの征服を目指すことになりそうだ。夕暮れの京都競馬場で、「フランス語をしゃべれるようにならないとね」とつぶやいた国枝調教師の熱い心は、海外へと羽ばたいていた。