オグリの里
菜七子フィーバー「オグリパワー」注入

2019年03月08日 23:45

ヒマリチャンに騎乗し、笠松競馬場のパドックを周回する藤田菜七子騎手

 「地方競馬では最後になる『笠松騎乗』の依頼を頂き、うれしかった。笠松で乗れて良かったです」と藤田菜七子騎手。レース後、この言葉を聞いて、こちらもうれしくなった。彼女が憧れたオグリキャップが育った競馬場が、ラストになったのは偶然なのか。「菜七子フィーバー」で沸いた笠松競馬場への初参戦を追った。

 デビュー4年目、21歳になった菜七子騎手。茨城県出身で、競馬に興味を持つきっかけになったのは、小学5年生の頃だったという。家族が運転する車で高速道路を走っていた時、偶然見つけた車の横側に「オグリキャップ」と書かれていて、馬運車であることを知った。「オグリキャップ」をネットで調べ、国民的アイドルホースだったことも分かった。テレビ中継で有馬記念なども見て、やがて騎手に憧れるようになったという。

笠松競馬場に里帰りし、馬運車から出るオグリキャップ=2005年4月

 オグリキャップは2005年4月、経営難に陥った笠松競馬復興の救世主として、引退式以来14年ぶりに里帰り。滞在中にも、厩舎と笠松競馬場を馬運車で移動した。08年11月には、アジア競馬会議記念デーのイベントで、北海道から東京競馬場に輸送され、パドックを周回したことがあった。彼女が見たのは、このときだったのかも...。

装鞍所で騎乗馬の状態を確認後、出走に備える菜七子騎手

 馬運車「オグリキャップ号」とは、運命的な出会いで、彼女は競馬の世界へと導かれたのだろう。ラジオ番組でも「笠松は初めて行く競馬場なので楽しみです。頑張りたいと思います」と、オグリ伝説発祥の地への参戦に闘志を燃やしていた。

 関東の美浦所属で、これまで笠松遠征のチャンスはなかったが、早春の3月6日、JRA交流戦「つくし賞」で、笠松参戦がようやく実現した。GⅠ初騎乗のコパノキッキング(フェブラリーS5着)と同じ栗東・村山明厩舎の所蔵馬で、3歳牝馬のヒマリチャンに騎乗した。3番人気で、結果は5着に終わったが、小回りコースに対応した積極果敢なレース運びは好感が持てた。

 JRAが3月から導入した女性騎手減量制度で、菜七子騎手は当面、3キロ減で騎乗できるようになった。「減量の特典を生かせるジョッキーとして、菜七子騎手に申し入れて、騎乗してもらうことになった」と村山調教師。小倉開催での騎乗を終え、この日の朝には栗東トレセンで調教騎乗を行った後、笠松入りした。

 検量後には、騎乗馬ヒマリチャンの馬体などをチェック。マイクロバスに乗り込んで、日本唯一で世界的にも珍しい「内馬場パドック」へ向かった。菜七子騎手が登場すると、スタンドや外らち沿いでは、詰め掛けたファンがカメラの放列。「菜七子ちゃん、頑張って」と熱い声援が飛び交った。

 初めての内馬場パドックで整列し一礼後、ヒマリチャンに騎乗。すぐに馬場には向かわず、ゆっくりと1周半ほど回ってくれた。笠松特有のパドック形態に菜七子騎手も戸惑ったようで、後ろを振り返り、スタート地点の方向を見つめるシーンもあった。

パドック前の外らち沿いに詰め掛けた大勢のファン

2番手からの積極的なレースで、笠松の小回りコース攻略に挑んだ菜七子騎手(左)

 注目された返し馬では、中央スタンドや特別観覧席前の第4コーナー方面には向かわず、カメラを構えたファンからため息が漏れた。いつも感じることだが、JRAの騎手はすぐに第1コーナー方面へ向かう傾向が強くて、残念である。一昨年に来場したミルコ・デムーロ騎手は、スタンド前でファンサービス満点の返し馬を披露してくれて観客を喜ばせたが...。こればっかりは各ジョッキーの判断に任せるしかないようだ。

 笠松・つくし賞には中央馬5頭、地方馬5頭が出走。ヒマリチャンはスタートダッシュを決めて2番手をキープ。これまで追い込み脚質だったためか、ハイペースがたたり、3~4コーナーで手応えをなくす厳しい展開。最後の直線でも伸び切れず、5着に残るのが精いっぱいだった。

 ヒマリチャンの母はスマイルビジンでもあり、菜七子騎手の勝利の笑顔を見たかったが、レース後は悔しそうな表情。「ゲートを出て、前へ行くことができた。道中は押し通しで追走しましたが、最後は苦しくなった」と淡々。笠松の印象については「パドックが内馬場にあったり、ゲート近くを電車が通ったりして驚きました」とも。一昨年の盛岡・クラスターカップ(GⅢ)では、笠松所属の「鉄の女」タッチデュールに騎乗した(12着)ことがあったが、しっかりと覚えていてくれた。

5着に終わり、残念そうな菜七子騎手

 菜七子騎手はこれまで、多くの地方競馬場で騎乗してきたが、現在開催が行われている地方競馬13場のうち、笠松と水沢では騎乗がなかった。水沢ではJRA交流戦が行われておらず、実質的には笠松騎乗で「地方競馬の全場制覇」となった。

 つくし賞を勝ったのは、佐藤友則騎手が騎乗した中央馬ウォーターファラオ。5番人気だったが、鮮やかに差し切り、佐藤騎手は賞金の高いレースで、より燃える「交流ハンター」の本領を発揮。「中央の騎手が前に行くことは頭に入れていた。会心の勝利でした」と笑顔。中団から菜七子騎手を3~4コーナーであっさりとかわし、リーディング騎手の意地を見せた。ヤングジョッキーズシリーズ2017のファイナルで、菜七子騎手と腕を競った渡辺竜也騎手は7着に終わった。

つくし賞で勝利を飾った佐藤友則騎手

 この日の入場者は、普段より5割ほど多い1210人。菜七子騎手の騎乗は1レースだけだったが、女性や子連れのファンの姿もあり、大きな声援を送っていた。「菜七子ちゃんの応援で、初めて馬券を買った。(外れたけど)単勝を記念馬券に」という人も多かったようだ。「魅力ある女性ジョッキーで、また笠松に来てほしい」という声も聞かれ、今度は、笠松での交流戦やエキストラ参戦で、宮下瞳騎手や木之前葵騎手との女性ジョッキー対決なども見てみたい。

 コパノキッキングと菜七子騎手のコンビは、4月10日の東京スプリント(大井)に挑戦する。このレース、6年前にラブミーチャンが戸崎圭太騎手で勝利。地方馬の優勝はラブミーチャンだけで、村山調教師も「強かったですねえ」とたたえ、菜七子騎手での制覇も願っているようだった。

 オグリキャップの馬運車を見たことをきっかけに、競馬の世界に入った菜七子騎手。そのオグリキャップが10回も走った「笠松の風」を体感しながら駆け抜けた菜七子騎手には、最後まで諦めないで一生懸命走る「オグリパワー」が注入されたはず。今週末は9日の中京、10日の中山で計14レースに騎乗予定。このところ、水曜日の笠松交流戦に参戦したJRA騎手は、週末のレースで相次いで勝利を挙げており、菜七子騎手も続きたい。そして、笠松2度目の参戦では「リベンジの1勝」を飾って、菜七子スマイルを見せてほしい。