おきらくご

第六十二回 入門2

2018年07月04日 16:11

  • にぎわう寄席
  • 厳しい修行の果てに

 だいぶ間が空いてしまいましたが、前回に続き入門のお話を。

 ちょくちょく落語家さんと飲む機会があったりすると、弟子をとった師匠の話とか、自分の弟子の話などをしていただくことがあります。真打になり、弟子をとっていい身分にはなったものの、爆発的に売れている方以外は弟子入り志願に来ると「なぜ自分を選んだのだろう」と自問自答なさるそうです。

 たとえば、一門に売れている師匠がいれば「なぜあの師匠じゃなくて私なのか」と思うといいますし、仲間内に弟子をとった人がいれば、そこに心構えなども相談に行くということも聞きました。今売れている落語家さんによく入門の経緯などを聞いたりするマスコミがいますが、その返事のほぼ100%が、「師匠の芸に惚れた」あるいは「この人だとひらめいた」だったりするわけですが、あくまでもそれは表向きの言葉。そこに至るまで、弟子のほうにもたぶんいろんな思いがあったと思います。

 何年か前、小三治師匠が落語協会の会長だった平成22年以降、落語協会では新弟子の入門基準が厳しくなりました。師匠に入門し、協会に願書を出してから前座になって寄席に入るまでの見習い期間を、それまでよりも大幅に延ばして平均1年としたのです。その結果どうなったかというと、落語家を志す若者は落語芸術協会に雪崩をうったように流れました。そこから見えるのはやはり、自分の就職先としての「師匠選び」または「協会選び」をする若者の姿なのです。

 入門する時に何を優先するかは、その志願者によって違います。

 ※パターン1 売れている師匠の弟子になりたい

 このパターンは落研など、落語を学生時代に演じていた以外の人に多いです。すなわち、全くそれまで落語を知らなかった、あるいは演じたことがなかった人。漫才や演劇などに携わっていたいわゆる「移籍組」が主流です。

 ※パターン2 若い師匠の一番弟子になりたい

 これは落語に詳しい落研出身者に多いです。兄弟子が大勢いれば下っ端として上下関係に気を使わなければならない、一番弟子ならば先輩としてふるまえる。なによりも師匠を独占できる、そんな動機なのでしょうか。

 ※パターン3 年齢が上の、ベテラン真打の弟子になりたい

 後ろ盾という意味で、この師匠の弟子というだけで協会から一目置かれる。何よりも面倒見がよく、やさしそうと思うようです。

 ※パターン4 知り合いの紹介

 これは、入門を志願する方法として一番安全な、断られることがほとんどない方法です。ですが下手をすると紹介してくれた人任せということで、その師匠のことをどのくらい 知っているかもわからない、昔の見合い結婚のようなものです。ただ、このパターンの 一番悪いところは、紹介した人間がひいき筋だったりすると師匠側も自分の都合でなかなか首にしにくいところです。また、結果的に師匠と相性が良くないと弟子が紹介者を恨むということもあります。師匠は誰でもいいからとにかく落語家になりたい、という人がすがるのがこのパターンです。

 それぞれのパターンは一長一短だと思いますが、少なくとも落語家として理不尽を受け入れる気持ちがないと前座修行は務まりません。入門志願者は数多くいても耐え切れず逃げてしまうことも多い世界です。その意味ではパターン1、2、3どれでも同じだと思います。結局志願者の落語家になりたいという思いが一番重要なわけですから。

 ただし、私の経験から4の知り合いの紹介だけは賛成しません。私も何年か前に、弟子入りの相談を学生から受けて親身になって紹介したことがありましたが、入門したらあとは知らんぷり、あるいは逆恨み、そんなトラブルが幾つかあり、二度と紹介だけはすまいと心に誓いました。

 若者がこぞって落語家を目指す今の時代。考えようによっては落語家の修行くらいしか世の中にきちんとした礼儀作法を教え込んだりする場所がなくなった... そんなさびしい思いを抱いたのも事実です。その一方で、入門した若者が末には立派な落語家になっていくのを楽しみにしているおじさんでありました。

  <この項終わり>

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たい亭あたり

 岐阜では珍しい落語・演芸専門オフィスを主宰。同時に岐阜市の小学校の落語クラブの外部講師を務め、夏には学生落語の大会も主催するなど幅広く活動中。夫人は武芸川で小さな喫茶店を経営。