第六十八回 寄席・演芸オフィスとしての覚悟

2018年11月26日 11:00

  • キャパシティー的にとてもマッチしていると考える大須演芸場
  • 大須演芸場
  • 和室での落語会

 私が現在、展開する寄席演芸工房せいしょう亭の仕事のほとんどは、プロの落語家さんとの仕事です。

 私がもともと住んでいた長野県で立ち上げた15年前から比べると、岐阜での落語会が飛躍的に増えたということは前にも述べたと思いますが、何年も前から叫ばれている「落語ブーム」はどうやら一過性のブームではなく、現代という時代に生きる人間たちの中にすっぽりと抜け落ちている「自分で想像する世界」を具現化した芸能であることが、人々のノスタルジーを呼び覚ます要因になっているのではないかと思います。

 「町内の若い衆」「身分制度」「遊郭」「武家社会」「奉公」などなど、現代に生きる者が「歴史」の中でしか認識していないものを落語家がカミシモを振りながら複数の人間を演じ分けることによって人々の頭にその人だけの架空の世界が広がる楽しみがある、これが今の落語ブームの一番の基になっていることだと思います。

 ただ、その人気が800人とも900人ともいわれているプロの落語家すべてに行きわたっているかといえば、決してそうではありません。頂点があれば必ず底辺がある。持っている資質と、日頃の努力と、お客さまへの営業と、そこに何らかの「運」が組み合わさって、その落語家の人気は急に上がります。

 そしてその落語家さんの人気の上昇に応じて、お呼びする時の出演料はだんだんと上がって行きます。若い時にとても安くお願いしてきたからといって、かなりのファンがついてきて自分の芸にも自信が持てるようになってくれば出演料はあげてほしい。でも昔から世話になっているから言い出しにくい。

 そんな時に、こちらがいち早く気付いてあげられないとその落語家さんとの関係は微妙なものになってきます。その会にその落語家さんの今の人気に見合うだけの出演料を出せる力がないのであれば、その会を卒業させてあげるよう依頼者に説明して、次の方をあっせんする。かといって新しい方の力量が著しく元の方より劣ってしまっては今度は私と依頼者の関係が微妙になる。そういうとても難しい場面にも15年の間に何度も遭遇してきました。

 皆さんには意外に思われるかもしれませんが、実はいまだに世間の出演料の相場、というのを知りません。どこかの落語入門に「真打10万、二つ目5万」なんて書いてありましたが、それより多い事例も少ない事例もあって全然目安にはなっていません。何よりも、同じ東海地区の席亭さん、あるいは大手の会社が私のお呼びする方と同じ方にいくら支払っているかはその予想すらつきません。

 その値段設定はそれまでのその方との付き合いの深さ、その方のいま現在の人気、ここまで来てくださる場合の交通費、そして当日のチケットの売れ行き予想、などの上限を加味したものをこちらから提示し、それでOKが出るかどうかというとてもアバウトなもので、落語家さん側からすれば自分の評価はこれぐらい、と言われていると同じですからものすごく気を使います。なるべく多く出してあげたい、でも仕事として成立しない額は出せない、そんな中で毎回仕事をして頂いているわけです。

 とはいえ私のところは、吹けば飛ぶような個人オフィスです。以前週刊誌にとばっちりで書かれた記事には、たびたび「せいしょう亭関係者」が登場してくるので大きなオフィスなのかと勘違いをしている方も多いのですが、せいしょう亭所属で活動しているのは私たち夫婦のみ。あとは全く関係者も存在していない弱小です。

 公共ホールの自主事業のように人気の落語家さんを3人も4人もお呼びしての大会場での公演など考えたこともありません(笑) もちろん私たちにとって一回の公演の失敗が致命傷になるようなその手の公演に手を出すことが危険だと認識しているから、ということもあるのですが、基本的にお呼びした落語家さんの芸をたっぷりと聞いて頂くことこそが、せいしょう亭の存在意義だと思っているのでじゅうろくプラザのキャパシティー592が限度、それ以上の会場で公演は行わないと決めています(もちろん、委託されて芸人さんをブッキングする地方の会などは除きますが)。

 人気のある方ならば700、800のホールで行うことも可能なのかもしれませんが、あきらかに私の身の丈に合いません。じっくり芸を聞いて頂くと同時に、目で表情も追える会場、そこで行うことこそ落語の本当の醍醐味だと思いますし、たとえそこで大儲けができたとしても次に続くとは思えない。だからこその芸人チョイス、会場チョイスなのです。

 ただ、少数精鋭の会であるがゆえ、大きな落語会に比べてせいしょう亭の出演料に対する落語家さんの勤務形態は、長時間労働になるかもしれませんけど...(笑)

   <つづく>