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【民意は訴える】⑤幼保無償化
保育士負担、拡大の不安

2019年07月17日 00:00

  • 大垣市の子育てサロンでコーディネーターを務める長谷川敦子さん(中央)。幼保無償化による保育士負担の増加を心配する=大垣市赤坂町、赤坂地区センター

 「短大時代の友達も保育士だった知り合いも『あんな仕事、もう二度とやらない』って言うんです。仕事は多いのに給料は安く、体調を崩しても休めない」。元保育士の長谷川敦子さん(39)=大垣市荒尾町=は苦笑いする。それでも一昨年、末娘が幼稚園に入ったのを機に保育の現場へ戻った。「ちょうどニュースで保育士不足が叫ばれ始めた頃。夫が『資格があるんだしやってみたら』と背を押してくれたから」。市が未就園児親子を対象に設けている子育てサロンで週3日、働き始めた。

 長谷川さんは今、「全世代型社会保障」の一環で10月に始まる幼児教育・保育の無償化を複雑な思いで見つめる。4人の子のうち幼稚園年長の末娘も対象となり「半年とはいえ助かる」一方、無償化が保育需要を喚起すれば保育士はもっとつらい思いをするのが手に取るように分かるからだ。

 高校卒業後、保育士資格が取れる短大に進み、「2年間みっちり学んだ」。そのかいあって卒業は2000年と就職氷河期の真っただ中だったが、県内の私立保育園から内定をもらった。「クラスの半数が保育園に就職したくてもできなかった。せっかく先生になれたんだから」。先輩より長時間働き書類整理などの仕事は持ち帰った。夜、作業をしながら寝てしまうこともしばしば。園児の母親に「子どもを育てたこともないくせに何が分かるの」と怒鳴られて涙したこともあったが頑張った。「でも給料は家族も驚くほど少なかった」。5年間働いたが結婚を機に保育士を辞めた。

 厚生労働省の2018年賃金構造基本統計調査によると、保育士の平均月収は24万円と全産業平均33万7千円の約7割。年収に換算すると358万円と全産業に比べて139万円低い。 先日、「無償化なら(保育園に)入れちゃった方が得だね。楽だし」と話す若い母親を目にした。「園児が増えればその分、先生に求められることも増え、負担はさらに大きくなる。国は対応できるって考えているのかしら」

 これまで高齢者に偏りがちだった社会保障の給付が幼保無償化という形で若い世代に振り向けられたことを「画期的」と評価するのは大垣女子短期大幼児教育学科の松村齋(ひとし)教授。ただし「親中心の発想で、子どもの育ちという観点からは十分に語られていないのは残念」と懸念する。5歳ごろまでの愛着形成が社会性の発達など人としての土台を固めるのに大切といい、「親の負担軽減と両輪で、国の未来を担う子どもの人づくりの視点に立った施策を考えるべきだ」と指摘する。保育士の処遇についても「給与改善がようやく始まったばかり。道半ばで幼保無償化が潜在的な保育需要を掘り起こせば保育の質の低下を招いてしまう」と警鐘を鳴らす。

(古家政徳)


【記者のひとこと】

 「5歳までの学びは花壇でいえば土壌。芽を出し、茎を伸ばし、花を咲かせるために幼児教育がいかに大切か、いま一度考えてほしい」と松村齋教授。人工知能(AI)など先端技術が〝秒進分歩〟の勢いで進化を続ける今、幼児教育・保育にとって必要なのは「無償化」より質の高い学びではないだろうか。小学校では来年度から「主体的・対話的で深い学び」を掲げた教育が始まる。自ら学ぶ姿勢や論理的に考える力を養い、グローバル人材を輩出していくのが狙い。その学びをより確かなものにするためにも「土壌」を豊かにしていく施策こそが必要だ。保育士・幼稚園教諭の待遇を改善し、幼児期の子どもたちの質の高い学びを保障していく。日本の将来を背負って立つ人材を育てていく投資が今、必要ではないだろうか。どう取り繕うとも幼保無償化はばらまきにすぎないと感じる。


【課題への直言】

大野泰正候補(自民) 保育の受け皿整備や保育士の待遇改善、学童保育の質・量の拡充

梅村慎一候補(立憲民主) 親子の安心安全が最優先。待機児童解消と保育の質の確保を実現