職業はマンモス狩り
身にあまるものたちへ 歌人 野口あや子

2020年07月09日 10:41

 マンモスを狩るようにテンションをあげて仕事をしている。

 ありがたいことに好きで始めた書き物が、だんだんお金という形でかえってくるようになった。サラリーマン的生活をしたことがない私は、お金の稼ぎ方に関してはびっくりするほど欲望に正直だ。自分の周りにある情報や経験や知識をなにかしらに書いて、それをお金にして、それを夕飯のおかずにして食べるのだと思うと、日々周りが獲物でいっぱいに見えてくる。

 当たり前だが、ギャランティーが大きいと人は嬉(うれ)しい。だけれど思い切り贅沢(ぜいたく)な暮らしがしたいとは実は思わないほうで、毎晩フレンチを食べたいとか、高層タワーマンションに住みたいといった欲望には全く食指が動かない。なのにどうしてこんなにお金を稼ぐことでテンションが上がるのかと考えて、これは狩人でいうマンモス狩りの喜びだなと思い至った。

(撮影・三品鐘)

 わたしが狩人なら、やはりウサギよりマンモスを狩ったときのほうが嬉しいだろう。うだうだと時間をかけず、槍(やり)の一突きで殺せたら誇らしい。狩人冥利(みょうり)につきる。それを持ち帰って村人みんなでマンモスを食べて宴(うたげ)ができたら楽しかろう。ちょっといいお酒もあけちゃうというものだ。「なんでそんなに仕事に命注いでいるの? 世の中にはお金で還元できない価値だっていっぱいあるじゃない」という友人に、「でも仕事で大きいマンモス狩ったら自慢したくならない?」と言ったら真顔で「なる」と言っていた。そういうものだ。人の欲望や快楽自体にはなんの罪もない。

 わたしだって自分が王様や女王様になりたいタイプの人間ではないと思っているけれど、目の前にいっぱいダイヤやサファイヤやルビーがついた綺き麗れいなティアラがあったら、とりあえず被(かぶ)ってみたくはなると思う。

 快楽は思想よりもっと原始的なものだ。そして快楽に正直になればなるほど夏はここちよい。冷凍庫からじゃらじゃらと氷を出して麦茶を注ぐ。ただ注ぐのではなく、このじゃらじゃらというところがポイントだ。快楽のチャンネルを回してみよう。夏は喜びにあふれている。


 岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。

 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

写真家・三品鐘さんのホームページはこちら


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