ハイヒールと自尊心

2020年08月06日 12:50

 「私、セクハラ、モラハラを受けやすいんだけど、どうしたらいいと思う」「ハイヒール」というやりとりを、紙面でも何度か登場している親友の大金持ちイケメンゲイ歌人、小佐野彈としたところだ。

 「ヒール、姿勢よくなるし。オラオラ感出るし。脚綺麗(きれい)になるし」と小佐野。脚は切実に綺麗にしたいので、松坂屋の靴売り場に走り、エナメルの黒ヒールを調達した。普段仕事でヒールを履かざるを得ない人の苦労の足元にも及ばないながら、久しぶりのヒールはいいものである。

 そうして、どこに行くにも、とびきりお気に入りのヒール靴を履いてツカツカ歩いているうちに、なんだかメンタルが強くなってきたことに気がつく。コンバース履いてた頃は、ぶつかられても「すいません」と言っていたのに、今は「舐なめたこと言ってると踏んづけますことよ」くらいの勢いだ。ヒールの雰囲気にあわせて購入したのは、黒いタイトなワンピースと真っ赤なピアス。どちらも「いかにも強そう」なアイテムで、こういう服装をしている時はキャッチに声をかけられなくなって二重に嬉(うれ)しい悲鳴である。

(撮影・三品鐘)

 自分が好きなことこそが、一番に自分を守ることだと思う。あらゆるハラスメントは加害者が悪いのは大前提として、「こんな私ですみません」というマインドの人と「私最高ですが、何か?」というマインドの人のどちらが被害者になりやすいかと考えれば、火を見るより明らかだ。そして自分が好きであればあるほど人生は生きやすい。この夏は「私最高ですが、何か?」モードを加速させようと、ノースリーブのワンピースやシャツまで愛用している。最初は「二の腕太いから恥ずかしい」と思っていたのが、見せ慣れてきたら「なかなかにやわらかそうで魅力的じゃない?」と思えるようになってきた。

 思えば「見苦しい」は、美の基準や規定に縛られるからこそ生まれる感情。今流行の、理想体型にとらわれずプラスサイズの体を愛する「ボディ・ポジティブ」という思想も、そうした流れだろうとSNSを嬉しく観(み)ている。「私最高ですが、何か?」。薄着になる夏、自分の体をもっと愛してみたい。


 岐阜市出身の歌人野口あや子さんによる、エッセー「身にあまるものたちへ」の連載。短歌の領域にとどまらず、音楽と融合した朗読ライブ、身体表現を試みた写真歌集の出版など多角的な活動に取り組む野口さんが、独自の感性で身辺をとらえて言葉を紡ぐ。写真家三品鐘さんの写真で、その作品世界を広げる。

 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

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