教えてホームドクター
抗血栓薬内服中の頭部外傷
転倒転落で高齢者に急増 突然重症化「トークアンドダイ」も

2019年05月27日 08:31

循環器内科医 上野勝己氏

 日本は世界で誰も経験したことのない、高齢化社会を迎えようとしています。高齢化に伴う動脈硬化性疾患のためステント治療を受けたり、脳梗塞を発症しやすい心房細動になったり、あるいは脳梗塞の再発予防のために、血液をサラサラにする抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬の2種類)を飲み続けている人が増えています。

 抗血栓薬はもともと体に備わる、けがをした時に出血を止める作用をブロックし、血液を固まりにくくします。狭窄(きょうさく)やステントのある血管や血流がよどんだところ(心房細動における心房内)で、血の塊(血栓)ができるのを予防するのです。

 血液は異物に触れると固まりやすくなるので、ステントなどの異物を血管内に入れると約20%の人で血栓ができて詰まってしまいます。これを予防するには、バイアスピリンという抗血小板薬だけでは不十分で、さらにチエノピリジン系の抗血小板剤(チクロピジン=商品名パナルジン、クロピドグレル=同プラビックス、プラスグレル=同エフィエント)または、それが飲めなければシロスタゾール=同プレタールを追加して2種類を併用しなければなりません。

 厄介なのは、これら抗血小板剤は心房細動による脳梗塞の発症には無効なのです。この不整脈の場合、抗凝固薬(ワーファリン、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)という別の抗血栓薬が必要なので、心房細動の患者がステント治療を受けると3種類の薬を併用しなければなりません。

 血液をサラサラにする薬と言われると聞こえは良いのですが、実は出血しやすくなる薬で、当然のことながら、代表的な副作用は出血(消化管出血と脳出血)です。例えば脳出血で見ると、どの薬も一つだけ飲んでいる場合には、1年間に0・2~1%の発症率しかありませんが、たくさんの量を飲むほど、また2種類(年5~6%)3種類(同40%という報告もある)と増えるほど出血の頻度が増え、高齢者ではさらに高頻度に起きます。

 さらに高齢化社会では、自然発生する出血だけでなく、運動能力の低下による外傷性出血も問題となります。「日本頭部外傷データバンク2018」によると、転倒転落による頭部外傷は65歳以上で急増し、死亡率も高く、その転帰は不良でした。高齢者はちょっとした外傷でも重症化しやすく、受傷直後には普通に会話ができていても、しばらくしてから突然重症化して死亡するケース、「talk&die」(トークアンドダイ)が問題となっています。

 高齢頭部外傷患者の30%が抗血栓薬を飲んでいましたが、抗血栓薬を飲んでいる高齢者では明らかに外傷による脳出血の頻度が高く、トークアンドダイの頻度も、抗血栓薬を飲んでいる患者で増加するのです(抗血栓薬なしで17・8%、抗血小板薬のみ31%、抗凝固薬のみ27・7%、両方服用33・3%)。

 高齢者で、特に抗血栓薬を内服している患者では、転んで頭を打っても会話ができるからと自宅で様子をみることは危険です。速やかに画像診断を行い、出血を認める場合は厳重観察を行い、中和薬(中和薬があるのはワーファリンとプラザキサのみ)の使用を考慮することが必要です。また、不要なのに2種類3種類と抗血栓薬を飲んでいる患者、年齢や腎機能を考慮せず過量に投与されている場合もあります。主治医とよく相談して自分にとって適量の薬を飲むようにしましょう。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)


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