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肺動脈性肺高血圧症
30歳前後の女性や小児発症 初期に息切れ、呼吸困難

2019年08月12日 09:53

循環器内科医 上野勝己氏

 私たちの体の血液循環は、体循環と肺循環という二つの循環回路から成り立っています。体と心臓との間での血液のやり取りをしているのが体循環で、心臓と肺との間が肺循環です。この二つの回路を使って、体から戻ってきた血液を肺に送って酸素を取り入れ、また体に送り出しています。

 体循環の血圧が上昇した状態が高血圧症といい、肺循環の血圧が上昇した状態を肺高血圧症といいます。

 肺動脈の圧が上昇する病態としては、肺動脈の収縮、肺動脈の壁の肥厚、肺動脈内にできた血栓による狭窄(きょうさく)の三つがあります。さまざまな病気によって、これらの病態が引き起こされます。このうち肺動脈が原因と考えられる肺高血圧は、肺動脈性肺高血圧症(PAH)といい、肺動脈の血栓が原因と考えられるものを慢性血栓塞栓(そくせん)性肺高血圧症といいます。

 肺動脈性肺高血圧症の基礎疾患としては、原因疾患が不明、遺伝性、薬剤性、強皮症や全身性エリテマトーデス(SLE)、混合性結合組織病(MCTD)といった膠原(こうげん)病や肝臓病に合併するものがあります。膠原病患者の約10%で肺動脈性肺高血圧症が起こるため、注意が必要です。

 この肺動脈性肺高血圧症は、30歳前後の女性に多く小児期にも発症します。統計によると、100万人に2~15人の発症率と報告されています。まれな疾患で難病に指定されています。

 15年前には有効な治療法が無く、平均余命は2・7年。3年生存率は20%という恐ろしい病気でした。ところが近年、肺高血圧症に効果のある肺血管拡張薬が開発されました。3系統の飲み薬と、24時間持続点滴薬です。点滴薬は在宅持続点滴で治療を受けることができます。これらの薬によって飛躍的に生命予後が改善したのです。高価な薬なので、欧米では単剤で使うことが多いようです。それでも5年生存率は、60~70%と劇的に改善しました。

 さらに日本では、各系統の飲み薬や点滴薬を組み合わせて使用することで、5年生存率は85%に改善しました。しかし病状が進んでしまうと、薬の効きが悪くなるので、早期診断早期治療が大切です。

 肺高血圧症になると、心臓から肺に血液を送っている肺動脈内の圧力が上昇し、血液を十分に肺に送れなくなります。そうすると血液中の酸素を増やせなくなるので、最初に出現する症状は労作時の息切れ、呼吸困難感です。次に体に血液がうっ滞するようになると、顔や体のむくみ、腹部膨満感などが出現します。さらに病状が進むと、胸痛や失神、喀血(かっけつ)、ショック症状などが現れます。

 NYHA心機能分類では、Ⅰ度=無症状、Ⅱ度=他人と同じペースで歩けるが息苦しさを感じる、Ⅲ度=他人と同じペースで歩けない、Ⅳ度=安静時でも息苦しさを感じる、と4段階に分けられています。Ⅱ度の状態での治療開始が望ましいので、家族に肺高血圧症の患者がいる、膠原病で治療を受けている人は、労作時の息切れなどの症状が出たら、早めの受診をお勧めします。診断には心エコー検査が行われます。肺動脈圧を測定でき、他の心臓病の有無も診断できます。超音波なので、妊娠可能年齢の女性でも心配ありません。若い人は疲れやストレスのせいにしてしまいがちですが、症状が続いている場合はそのままにしないことです。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)


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