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狭心症の治療法

2020年01月29日 10:48

循環器内科医 上野勝己氏

 片時も休まず一日10万回動き続ける心臓は、たくさんの酸素を必要とします。それを供給しているのが冠動脈という心臓の表面にある動脈です。冠動脈は大きく分けて3本あり、右冠動脈と、左冠動脈が左主幹部という根本の部分から分かれた、左前下行枝(ぜんかこうし)と回旋枝(かいせんし)という2本の血管です。心臓の5割以上に血液が送られなくなると、ショックや心停止が起こります。

 この血流の低下を起こすのが動脈硬化による冠動脈の狭窄(きょうさく)(目詰まり)です。通常、本来の血管の太さの75%以上が狭まると心臓の血液不足が起こるとされ、これを虚血(英語でイスケミア)と呼びます。2本以上の冠動脈に狭窄が認められたり(多枝疾患)、左前下行枝が狭窄したりしている場合には虚血の範囲が大きくなり危険と考えられ、バイパス手術やカテーテル治療が行われています。

 ところが最近ではカテーテル治療が、症状の改善には有用でも、死亡率や心筋梗塞の発生を減らすわけではないことが明らかとなってきました。また、たとえ冠動脈が3本とも狭窄していても、何らかの理由でカテーテル治療ができないために薬だけで経過を見ている患者において、何事も起きないことがよくあります。したがって安定した患者では薬で様子を見るだけでいいのではないか、急激に症状が進行して不安定化したときのみ積極的な治療を行えばよいのではないかという考え方が出てきました。

 最近米国で発表されたイスケミア試験では、中~高度虚血(ほとんどが左前下行枝狭窄や多枝疾患)の患者約5000人を、血行再建群(カテーテル治療、バイパス手術)と薬物治療をした群の半分に分け、5年間経過観察して慢性期の心筋梗塞、心臓死、心不全による入院などの有害イベントがどれくらい起きるかを調べました。結果は、両群でイベントの発生率に差が認められませんでした=グラフ=。また総死亡率でみると、両群とも約7%(心臓死以外も含む)と、これほどの重症患者でも非常に低い死亡率でした。

 薬物治療群の患者の23%は経過中に何らかの理由で血行再建を受ける必要がありました。とはいえ、重症と考えられてきた患者でも77%は薬物治療で十分だったのです。したがって冠動脈に狭窄が見つかり、その場所で虚血があっても、症状が安定していれば、まずはしっかりとした薬物治療や生活習慣の改善、禁煙を行うことが大切のようです。これで4分の3の患者は何事もなく過ごすことができます。これは日本で行われているカテーテル治療の約45%に当てはまります。重症虚血があっても高齢患者や腎機能の悪い患者ではカテーテル治療も危険性が高いため医師も患者も判断に迷うことがありましたが、状態が切迫していなければ無理をすることはないようです。

 ただし、症状が不安定で狭心症が重度な患者(少し歩いただけで狭心症が起きる、労作時だけでなく安静時にも症状が起きる、狭心発作時に冷汗を伴うなど)や、急性心筋梗塞、心不全の患者、左主幹部病変を持つ患者にはこの考え方は当てはまりません。一刻も早く適切な血行再建治療を受けるべきです。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)

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