県美は今
日本画と工芸で季節感 春の名品展

2020年05月23日 10:11

 所蔵品を中心とした「春の名品展」では季節に合わせた日本画と工芸を取りそろえている。岐阜の5月といえば例年鵜飼が始まる月である。さまざまな画家によって描かれてきた鵜飼は、岐阜が誇る日本画家、加藤栄三がよく描いた題材でもある。岐阜公園にある加藤栄三・東一記念美術館でもおなじみだろう。

 明治39(1906)年、岐阜市に生まれた加藤栄三は、幼い頃から芸術的才能を発揮し、はじめ習った書では10歳の時に皇太子殿下(後の昭和天皇)の御前での揮毫(きごう)者に選ばれたこともある。一度は家業を手伝ったが、竹内栖鳳の作品に感激して自らも画家を志し、東京美術学校(現東京芸術大学)へ入学した。以降は主として関東に居を構えている。栄三が本格的に鵜飼の取材を始めたのは故郷を離れて随分たった後、壮年期に入ってからである。故郷を同じくし、母校の東京美術学校でもつながりのあった川合玉堂にも助言をもらいに行ったという。

 「春の名品展」で展示中の「烟雨(えんう)の中」は栄三64歳の作品である。縦約1メートルの画面に、題の通り、雨の中の鵜飼が描かれている。金華山にかかるおぼろげな雲や力強いかがり火、炎と共に流れる煙が絶妙な色彩で表され、近寄るとそれらを通過する雨脚も見えてくる。山の夜の静寂の中、小さく描かれた鵜匠の姿も生き生きとしており、離れても美しく、近寄ってもさまざまな発見に心躍る作品である。

 中間展示替えでは玉堂の「藤」にかわり「藍川漁火図」を展示する。藍川とは長良川のことで、こちらにも長良川の鵜飼が描かれている。同じ鵜飼を描いた作品だが、玉堂は人間の営みに焦点を当て、鵜や鵜匠の動きをクローズアップした表現となっている。

 春の名品展では4月に紹介した明治生まれの川合玉堂や前田青邨らの作品から、現代の土屋禮一、長谷川喜久まで幅広く披露している。季節感に加えて日本画の表現の幅広さも垣間見える展示となっている。

(県美術館学芸業務専門職・有元まなか)

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