西日本ダービーを制覇した佐賀・エアーポケットの快走をスマイル全開でたたえる吉原寛人騎手。地方競馬での重賞100勝目も飾った

 ゴール前、「持ってる男」が3頭でのたたき合いを制した。10日、笠松競馬場で行われた「第5回西日本ダービー」(3歳、1900メートル)は、吉原寛人騎手(36)の好騎乗で、佐賀・エアーポケット(牡3歳、真島元徳厩舎)が中団から差し切り勝ち。ビッグレースで重賞初制覇を達成。デビューから19年の吉原騎手は、この勝利で地方重賞100勝目を飾った。 
 
 馬場がリニューアルされた笠松での「3歳秋のチャンピオンシップ2020」の一戦。雨が降ったりやんだりで、この地方は最高25.7度と気温が下がったが、蒸し暑さは相変わらず。西日本地区6県交流の生え抜き馬限定戦で園田、金沢から1頭ずつ、佐賀、高知、名古屋から2頭ずつ、笠松からは4頭が参戦した。

 持ち回りで6年に1度開催される西日本ダービーだが、今年は無観客レース。そんな中、岐阜工業高校の吹奏楽部によるファンファーレ演奏(事前撮影)が高らかに流れ、レースを盛り上げた。清流ビジョンにも生徒たちの熱演が映し出され、各馬がゲートイン。一斉にスタートを切った。

1周目のゴール前。高知のガンバルンが逃げ、水野翔騎手騎乗のガンバギフが2番手で通過

 高知・ガンバルン(国沢輝幸厩舎)が逃げ、地元・水野翔騎手騎乗のガンバギフ(井上孝彦厩舎)が2番手。期待を込めていた「ガンバ対決」となり、1周目のゴール前を淡々とした流れで通過。名古屋・インザフューチャー(川西毅厩舎)と筒井勇介騎手騎乗のチェリーヒック(田口輝彦厩舎)が3、4番手の好位につけた。 

 ■ゴール前、吉原騎手と吉村騎手による最高峰の追い比べ

 レースが動いたのは、笠松勝負どころ・第3コーナーへの下り坂。9番手を追走していた5番人気のエアーポケットは、吉原騎手のゴーサインに応えて、一気に先頭集団へ押し上げ。平瀬城久騎手が騎乗し、3番人気の金沢・フジヤマブシ(黒木豊厩舎)も早めの仕掛け。最後の直線では2頭の一騎打ちの様相だったが、大外からもう1頭。全国リーディング2位の吉村智洋騎手の騎乗で、1番人気の兵庫・イチライジン(田中範雄厩舎)が猛然と追い込んできた。トップジョッキーによる地方競馬最高峰の追い比べとなった。

吉原騎手の騎乗で西日本ダービーを制覇したエアーポケット(中央)。外が2着イチライジン、内が3着フジヤマブシ

 ゴール手前では3頭が横一戦になりかけたが、最後の一追いで真ん中のエアーポケットがグイッと抜け出し、イチライジンをアタマ差抑えて先着。前走14着(大井・黒潮盃)で伏兵視されていたが、吉原騎手が重賞初Vに導いた。さらに4分の3馬身差の3着にフジヤマブシ。金沢・MRO金賞で笠松のニュータウンガールを倒した豪脚の再現が期待されたが、早めに動いた分、末脚が鈍ったのか。山口勲騎手の騎乗で2番人気だった佐賀・ミスカゴシマ(平山宏秀厩舎)は「距離はいくらか長い」との不安もあってか中団からの競馬となり、伸びを欠いて8着に終わった。

 勝ったエアーポケットは芦毛馬で父・ダンカーク、母セインツプレイという血統。吉原騎手は前々走の盛岡・オパールカップでも騎乗。元名古屋所属のエイシンハルニレに敗れ4着だったが、騎乗2走目で最高の結果を残した。九州ダービー栄城賞2着、高知優駿は10着だったが、挑戦3度目で悲願の「ダービー制覇」を果たした。

 「ありがとう」とエアーポケットの顔にハイタッチし、優しくなでながら喜びを伝えた吉原騎手。佐賀から高知、盛岡、大井、笠松へと全国各地を転戦してきて、たくましく成長した若駒。「遠征で強くなった。2、3着馬も力のある馬でしたが、自分から負かしにいってくれた。(地元・金沢の)フジヤマブシの強さは知っていたので『やっつけたい』という気持ちがあった」。ゴール前、イチライジンの猛追もかわして「最後は祈るような気持ちでしたが、頑張ってくれました」と喜びに浸っていた。

 エアーポケット陣営では、真島二也調教師補佐が愛馬の走りをサポートし、見守った。「黒潮盃の後は疲れが残っていたので、軽めの調整にしました。長くいい脚を使える馬。吉原騎手が強気にうまく乗ってくれた」と名手の手腕をたたえていた。

 笠松勢には相手が強過ぎた。ガンバギフは、イベントの予想会(ライブ配信)で、やながせゆっこさん(岐阜ご当地タレント)が本命にして応援してくれていたが3、4コーナーで力尽きて10着。このほか、地元馬の最先着はツェレトナー(川嶋弘吉厩舎)で、向山牧騎手が騎乗し7着。ワイエスキャンサー(伊藤強一厩舎)は11着、チェリーヒックは12着に終わった。名古屋勢ではインザフューチャーが6着だった。

笠松競馬場で初めて開催された西日本ダービーの表彰式で喜びの関係者。岐阜ご当地タレント・やながせゆっこさんが花束のプレゼンターも務めた

 ■「重賞ハンター」3週間余りで5勝
 
 吉原騎手は中央でも重賞1勝。ネロに騎乗し、京阪杯(2017年、京都)を制している。ダートグレード競走では、昨年はマイルチャンピオンシップ南部杯(盛岡)でサンライズノヴァに騎乗し、悲願のGⅠ初制覇を達成。年末には全日本2歳優駿(川崎)をヴァケーションで勝ち、GⅠ2勝目。今年はコロナ禍で遠征を控え、金沢に腰を据えて重賞Vを量産。8月の読売レディス杯、加賀友禅賞に続いて、9月にはイヌワシ賞、サラブレッド大賞典、西日本ダービーと3週間余りで5勝を挙げて「重賞ハンター」ぶりを発揮した。

 北海道から九州まで「重賞を勝たせてくれる名手」への騎乗依頼は多い。西日本ダービーには当初、加賀友禅賞を勝ったハクサンアマゾネス(石川ダービー馬)で挑む予定だったが、前走のゲート入りが悪く、発走調教の再検査となり、笠松へは出走できなくなった。それを聞きつけたエアーポケット陣営から「いけるんじゃないか」ということで騎乗依頼となったのだ。

 地方競馬で最も乗れている吉原騎手。今回は吉村騎手、山口騎手らとのトップジョッキー対決も制し「今の俺、持ってる感じですね」と自信にあふれ、スマイル全開だった。地方重賞100勝については「いい馬に乗せていただき、勝たせてもらっています」と馬主さんらに感謝。笠松では9月22日の長月シリーズから、観客を迎えてのレース再開となる。既に南関東や名古屋では「有観客」が再開されており、「ファンの声援がやる気につながります。活気のある競馬場を取り戻していきたいです」と画面越しのファンに来場を呼び掛けていた。

 来年は名古屋で西日本ダービーが開催される。まだ優勝がない東海勢。既にデビューした生え抜きの有力馬たち。内弁慶にならずに、積極的に遠征させ、全国レベルで戦える馬に育て上げていきたい。