笠松競馬場に里帰りしたオグリキャップ。当時、JRAに移籍していた安藤勝己騎手と再会し、ファンを喜ばせ、存続の救世主にもなった=2005年4月

 ラストランでの有馬記念制覇をたたえる伝説のオグリコールから30年。2010年7月3日の永眠後からは10年...。全国の競馬ファンが選ぶJRA「未来に語り継ぎたい名馬」のベスト3にランクされ、今夏は笠松競馬場を舞台にした漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」の主人公として登場するなど、輝きを増し続けているオグリキャップ。笠松競馬からJRA入りして快進撃。地方と中央の垣根を超越した走りでファンの心をつかみ、人馬交流の懸け橋にもなった。愛され続ける名馬の魅力を皆さんと語り継いでいきたい。


笠松リーディングを3年連続で獲得するなど活躍した佐藤友則騎手

ここは毎度お騒がせの笠松競馬場―。馬場改修できれいになったが、新型コロナ禍による無観客開催とともに、今夏は大きなピンチを迎えている。トップジョッキーとして活躍した佐藤友則騎手(38)ら笠松の3騎手と尾島徹調教師(36)の4人が1日、NAR(地方競馬全国協会)の免許が更新されず、「引退」扱いになった。佐藤騎手のほか2人は、山下雅之騎手(36)と島崎和也騎手(34)。4人ともまだ30代と若く、ファンに親しまれた人材を失い、笠松競馬にとって大きな痛手になっている。

 笠松競馬を運営する県地方競馬組合と4人には、NARから通知があった。理由は明らかにされていないが、年1回更新される免許交付がなく、騎手3人は、今後少なくとも1年間は地方競馬で騎乗できなくなった。

 一昨年まで3年連続で騎手リーディングに輝くなど笠松競馬の顔でもあった佐藤騎手は、6月にニュータウンガールとのコンビで、悲願の東海ダービーを制覇。「長年面倒を見てくれてきた先生にやっと恩返しができた」と喜んでいただけに残念だ。

笠松競馬所属騎手は14人に減少。騎手不足が深刻になっている

 笠松競馬の公式ホームページや競馬場正門、東門に掲げられている所属騎手の写真は17人から3人減って14人になってしまった。笠松競馬を愛するファンらは信じられない思いも強く、寂しさを募らせている。

 今年は東川公則騎手が調教師に転身し、松本剛志騎手は負傷療養から復帰。4年前、所属騎手が13人に減っていたこともあるが、今年は1日12レースの日も多いし、フルゲート12頭立てもあって、騎手不足は深刻になりそうだ。一方で若手騎手にとっては騎乗数が増え、チャンスにもなる。4月にデビューした深沢杏花騎手に続いて、10月には長江慶悟候補生も騎手デビュー予定。東海公営として名古屋の騎手にも多く参戦してもらうなどして、このピンチを何とか乗り切っていきたい。

■ニュータウンガールがMRO金賞2着、岐阜金賞で「東海3冠馬」へ
 
 東海、石川のダービー馬2頭による頂上決戦は、大外から一気に飛んできた4番人気馬に優勝をさらわれ、競馬の怖さ、面白さが詰まったレースとなった。
 

ニュータウンガールで東海ダービーを初制覇した佐藤騎手と関係者

 7月28日、金沢競馬場で行われた3歳重賞「MRO金賞」(1900メートル)。笠松から参戦した東海ダービー馬で重賞5連勝のニュータウンガール(井上孝彦厩舎)には、主戦だった佐藤騎手ではなく、藤原幹生騎手が初騎乗し1番人気。石川ダービー覇者でデビューから5連勝のハクサンアマゾネスには、吉原寛人騎手が騎乗し2番人気。最後の直線では牝馬2頭の一騎打ちになり、ニュータウンガールがハクサンアマゾネスを競り落とした。これで「勝負あった」、藤原騎手も「勝った」と思っただろうが、ゴール前ではまさかの光景が画面に映し出された。

 平瀬城久騎手が騎乗した地元・金沢の牡馬フジヤマブシはスタートで出遅れ。道中も離れた最後方にいたが4コーナーから猛追。とても届きそうもない位置から豪脚を繰り出し、ゴール寸前、クビ差でニュータウンガールを差し切ってしまったのだ。
 
 藤原騎手にとっては、ビップレイジングに騎乗し、サムライドライブを豪快に差し切った東海ダービー(2018年)のようなレース展開。ゴール前10メートルほどの勢いの差が、明暗を分けてしまい、競馬の奥深さを再認識させられた。このMRO金賞では2年前、ドリームスイーブルに騎乗した佐藤騎手が、尾島調教師に重賞初勝利をプレゼントしたこともあった。

 ニュータウンガールは重賞6連勝を逃したが、ダービー馬決戦は制したのだから「負けて強し」の声も...。この夏の最大目標である「岐阜金賞」(SPⅠ、1900メートル)へのトライアルだったと思えば、上々のレース内容。駿蹄賞、東海ダービーに続く制覇で、ドリームズライン(当時名古屋、現金沢所属)以来、史上5頭目の「東海3冠馬」誕生なるか。注目のレースは8月27日、笠松競馬場で開催される。
 
■公正なレースで、クリーンな競馬場に

笠松競馬場内でファンの来場を待つオグリキャップ像

 今夏は馬場改修が行われた笠松競馬だが、場外では「調教師、騎手の馬券購入問題」で大揺れとなっている。捜査は長引いており、先行き不透明だが、こんな時こそ、笠松の存続を願って目を光らせ、関係者の心の支えとなって勇気づけてきた「永遠のヒーロー」オグリキャップの出番だ。

 有馬記念で2度優勝したオグリキャップは、どんなピンチにも頭を低くして、最後まで諦めない走りを見せてくれた。その闘争心を育てた笠松競馬の関係者の心には「オグリキャップ精神」があり、現場の底力となって受け継がれ、復興につなげてきた。オグリキャップ像は笠松競馬の守り神として、競馬場正門近くでファンを出迎えてきた。

 「競馬の再開について」と題した県地方競馬組合のリリース(5日)では、レース再開に向け、走路改修工事が完了することを報告。笠松競馬関係者が、競馬法違反(馬券購入)の疑いで警察の捜索を受けたことについては「競馬関係者の法令順守の重要性についての意識改革、抑止力としての監視体制の強化を主眼とした公正確保強化策を推し進めている」と発表。事件については「詳細が判明したら発表したい」とのこと。NAR広報課でも「捜査が進んではっきりしたら、きちんとコメントしたい」としている。

馬場改修が行われ、きれいなコースになった笠松競馬場

 コースがリニューアルされ、6月以来となる笠松競馬のレースは10日に再開されるが、競馬場としてはいきなり踏ん張りどころを迎える。例年ならお盆シリーズとして、イベントも盛りだくさんで盛況になるが、今年は無観客開催。13日には「くろゆり賞」(SPⅠ、1600メートル)が行われ、全国から強豪が参戦するが、ファンはこれまでのように電話、インターネット投票で馬券を買ってくれるだろうか。

 公正なレースに取り組む笠松競馬の姿勢が問われており、ネットのライブ中継では競馬ファンが厳しい視線を注ぐことだろう。笠松競馬としては、この機に「浄化」を押し進め、クリーンな競馬場に生まれ変わりたい。騎手、厩舎スタッフをはじめ全てのホースマンが一丸となって「フェアプレー」に徹して、笠松競馬を愛してくれてきたファンの信頼を取り戻していきたい。