佐藤友則騎手が騎乗し、1着でゴールするニュータウンガール。東海ダービーを制覇し2冠目を獲得、3歳世代の頂点に立った

 今年は静寂の中でのゴールとなったが、笠松のニューヒロインは桁違いに強かった、「友さん、井上先生おめでとう」。

 第50回東海ダービー(1900メートル、SPⅠ)が9日、名古屋競馬場で行われ、1番人気のニュータウンガール(牝3歳、井上孝彦厩舎)が、佐藤友則騎手(38)の好騎乗で圧勝。重賞5連勝を飾り、東海地区3歳世代の頂点に立った。5月の駿蹄賞に続いて2冠目となり、岐阜金賞で「東海3冠馬」を目指す。

ニュータウンガールの背中で歓喜に浸った佐藤騎手

 佐藤騎手は悲願のダービージョッキーの座をつかみ、井上調教師も初制覇となった。「うちの先生の所属馬でダービーを取れ、先生をダービートレーナーにできたことが一番うれしいです」と佐藤騎手。笠松勢の優勝は、サムライドライブを破ったビップレイジング(藤原幹生騎手、笹野博司厩舎)以来2年ぶり。牝馬優勝は史上8頭目となった。

 東海公営最高の晴れ舞台。各馬初距離の1900メートルでの攻防が注目された。好スタートから3番手につけたニュータウンガール。3コーナーを過ぎて逃げたエイシンハルニレ(岡部誠騎手)がいっぱいになり、馬なりで先頭を奪った。4コーナーでは外からエムエスオープン(今井貴大騎手)がまくり気味に上がってきて、一瞬ヒヤリ。最後の直線ではゴーサインに応えたニュータウンガールが突き放し、2馬身差でゴールイン。2着はエムエスオープン、3着は11番人気・フクダイトウリョウ(戸部尚実騎手)。笠松勢もう1頭、380キロ台の軽量牝馬・スカイガーデン(池田敏樹騎手、尾島徹厩舎)は10着だった。

最高にうれしい「1着」をゲット。愛馬の勝利をたたえる佐藤騎手

 ゴール後、無観客ではあったが、ウイニングランのように勝利の喜びを体感しながら、ゆっくりと戻ってきた佐藤騎手。愛馬に感謝の気持ちを伝え、井上調教師と握手を交わすと「おめでとう」の声が飛び交い、笑顔のオンパレードになった。

 ニュータウンガール(馬主・新生ファーム)は、JRAで重賞勝ちがあるスズカコーズウェイ産駒。門別で2戦後、笠松に移籍。ラブミーチャン記念は2着だったが、ジュニアキングV(準重賞)から快進撃。ライデンリーダー記念、名古屋3重賞に続く勝利で世代最強を証明した。

 「競馬に絶対はない」。JRAの安田記念で単勝1.3倍のアーモンドアイが2着に敗れた。地方競馬のダービーシリーズでは佐賀、岩手で1番人気馬が完敗するなど、本命馬には嫌な流れがあった。それでも東海ダービーは新興勢力もなく、勝負付けが済んだ相手。「死角なし」「鉄板レース」と単勝1.3倍の断トツ人気に応えた。

井上孝彦調教師と握手を交わす佐藤騎手

 「騎手を20年やってきて、初めてダービーを取れそうな馬に出会えた」という佐藤騎手。2日前には金華山(岐阜市)への山登りに汗を流し、東海ダービー必勝へ新緑パワーも注入。前日にはゴルフを楽しんでリラックスし、「よく寝た」とぐっすり11時間。ダービー当日は名古屋競馬場に着いてからも3時間の睡眠を取ったといい、プレッシャーを感じずに大一番を迎えた。

 「準備ができていて、緊張しなかった。自信を持って乗ろうと思いましたが、ダービーは実力だけでは勝てないレースなんで、過信しないことも心掛けた。追い切りは本番まで中6日で馬なりの調整でしたが、馬と厩務員さんの仕上げを信じて乗った」

 笠松勢では久々の東海ダービーでの1番人気。10年前には筒井勇介騎手騎乗のエレーヌが、やはり単勝1.3倍で優勝している。「スタートでつまずかずに、エイシンハルニレをできるだけ前に置いてこの馬のリズムで走れば、力があるから勝てる」と、3コーナーからの必勝パターンで手応え。ただ一頭、次元の違う走りで強烈なゴールを決めてくれた。

ニュータウンガールの東海ダービー制覇を祝う関係者

 東海ダービーではこれまで、昨年のフォアフロントなどで3着が最高だったが、ついに栄冠を手にした。優勝馬の口取り撮影では、途中から「馬に乗った方が映えるから」と、ニュータウンガールの馬上で2冠目のVサインと、最後はビクトリーポーズでダービー制覇を厩舎スタッフらと祝った。

 「先生の緩みっぱなしで、うれしそうな顔をつくれて良かったです。15歳の時から23年間も面倒を見てくれてきた先生に一つ恩返しをと思っていて、ようやく『ダービートレーナー』をプレゼントできました」と自分のことよりも喜んでいた。この馬の良さについては「素直で乗りやすいところ。僕の中で、手応えを一番感じる馬なんで、他場へも出ていきたい」と、ダービーグランプリ(10月4日・盛岡)挑戦にも意欲を示した。

 井上調教師は騎手時代の1986年、ドントップで東海ダービーに挑み、1番人気だったが3着という苦い経験もあった。牝馬ミナミマドンナが無敗で制覇した年だった。騎手時代に果たせなかった夢を、トレーナーとして育て上げた愛馬で実現した井上調教師。優勝カップを掲げた佐藤騎手と師弟コンビで歓喜に浸った。

佐藤騎手と井上調教師の師弟コンビ。初の東海ダービー制覇に笑顔がはじけ、勝利をたたえ合った

 ダービートレーナーに輝いて「笑顔になるはなあ。ホッとしたよ。心の強さがある馬でここまで来たが、本命の印が付いていても、いつも不安はある。でも3番手につけたところで、勝ったなあと」。

 馬体重はプラス10キロだったが「今回はプラス体重でいこうと。レースに向けて、競馬は生き残りゲームだなあといつも思っていて、ここまで無事に来られたのが勝因。笠松での朝の運動で、ちゃんと歩いているのを見て安心した」。位置取りについは「コーナーが多いので、あまり外を回らないで内から行ってくれよと。本心は最後までハラハラドキドキでした」

 騎手、調教師として笠松一筋。管理する馬で1072勝目が悲願の勝利となった。「ダービートレーナーっていいですね。スタッフみんなが同じ方向で、オーナーも『任せるわ』と一言だけで、自由にできて一丸での勝利になった」
 
 距離適性については「レースが上手だから距離はこなすが、1600から1800ぐらいまでが一番力を発揮できる。一戦一戦が勝負で、岐阜金賞という目標もありますが、無事でいることが次につながります。無観客の中、馬もパドックでおとなしくて、いい状態で出せた。また強くなってくるんで、応援をお願いします」と画面越しのファンにも呼び掛けていた。

 岐阜金賞は、東海公営3歳クラシック戦で、名古屋の駿蹄賞、東海ダービーに続く最後の1冠。過去の3冠馬は笠松のイズミダッパー(1980年)、名古屋のゴールドレット(82年)、笠松のサブリナチェリー(93年)、21世紀に入って名古屋のドリームズライン(2017年)が24年ぶりに達成。ニュータウンガールは暑さに強い体質ではないようで、しばらく休んでから、地元笠松の岐阜金賞(8月27日)で名古屋勢を迎撃することになりそうだ。

パドック周回から、気合乗り十分だったニュータウンガール。さらなる成長が期待されている

 佐藤騎手は「抜け出してから、直線で遊ぶところがあるから」とあまり早く先頭に立たずに、きっちりと差し切る競馬に徹してきた。ここまで底を見せていない強さで、ポテンシャルの高さは相当なもの。岐阜金賞では史上5頭目となる「東海3冠馬」をあっさりと達成してくれそうだ。

 盛岡・ダービーグランプリは昨年、ニューホープ(現笠松)が5着だった舞台。ストーミーワンダーを失った笠松競馬にとって、ニュータウンガールは新たなスターホース。どこまで成長し、南関東やJRA勢とどこまで戦えるか。岐阜金賞は「笠松で生観戦したい」というファンの声もあるが、どうだろう。

 中学生時代にライデンリーダーの活躍に憧れ、ジョッキーの道を選んだ佐藤騎手。牝馬との相性はいいようで、「鉄の女」と呼ばれたトウホクビジンとのコンビでは、盛岡の重賞を制するなど全国の競馬場を駆け巡った。ニュータウンガールは地方・中央交流のダートグレード競走などにチャレンジしても好勝負できる逸材である。さらなる成長が期待され、全国の競馬場で輝く雄姿を見せられるといい。